会報誌 ACPC naviライブ産業の動向と団体の活動をお伝えします。

タイアップと必然 最先端とアーカイブ

中西:アニメと音楽のリンクが非常にうまくいった最近の例としては、『君の名は。』が挙げられますよね。相乗効果も含めて。この映画の登場で、やっぱり音楽を軽視しちゃいけないんだと改めて感じました。ドラマの主題歌も含めて、どの曲が使われるかは諸々の事情を考慮して決まる場合もありますが、もう一度「このシーンには、この曲が必要なんだ」という原点に戻って考える必要があると思います。作品と音楽の結びつきを深く考えずに決めていると、どんどん音楽の影響力が落ちていってしまう気がするんです。

松田:芝居の世界の感覚だと、音楽は必然なんです。タイアップ云々ではなく、もともと作品の世界観に不可欠だから音楽も準備するんです。それが結果的にヒットすることもあるというだけで。ミュージカル『刀剣乱舞』のCDを出したら、オリコンのデイリーランキングで1位になりましたが、単体の曲が愛されているというより、音楽を含めたトータルな世界観が受け入れられているということなんです。自分の好きなコンテンツに紐づいている音楽に対して、ファンの支持は絶大ですからね。

中西:だから記憶に残るわけですよね、音楽も。

松田:うちはアニメのキャスティング業務も手がけていて、最初に携わった作品が『るろうに剣心』だったんです。この時の主題歌はJUDY AND MARYの「そばかす」(1996年)でした。『るろうに剣心』はソニーが初めて関わったアニメで、主題歌を歌うアーティストも、ソニー内のレコード会社から選ばれるわけです。「そばかす」は素晴らしい曲だと思いますが、『るろうに剣心』は殺陣のシーンも多い作品ですから、僕は当時ちょっと合わないんじゃないかと思いました。初めて聴いた時は「本当にこの曲でいいんですか?」と衝撃を受けたくらいで(笑)。でも、結局ご存知の通り大ヒットになりましたから、アニメとうまくタイアップするという、後に当たり前になる手法をこの時に理解しましたね。

中西:それは時代の勢いが大きかったと思います。本来のイメージと異なるものでも、勢いで最終的には合致させてしまうエネルギーが当時はありました。

松田:アニメ・ファンもタイアップに慣れていないから、逆にJUDY AND MARYに興味を持ったかもしれない。

中西:どんなきっかけでも、JUDY AND MARYには一度聴いたらファンにさせてしまう力があったんですよ。

松田:音楽として考えたら、純粋にいい曲ですからね。

中西:ただし今、同じことをやっても難しいと思います。アーティストが悪いのではなくて、1曲のインパクトが伝わりづらくなっていますから。

松田:時代が変わったことはよく分かります。僕が考える音楽業界の方々との関わりは、タイアップでがっちり関係を築くというより、もう少しフランクなものなんです。もともとミュージカル『テニスの王子様』の曲がカラオケに入っただけで大喜びしたところから始まっていますから。面白い舞台をつくってみたら、音楽業界にもちょっとお邪魔させていただけるようになった、何かしらご一緒させていただけるようになった―みたいな感じなんです。

中西:「あの舞台、面白かったですね」から話が広がっていくような、エンタテインメントの基本に戻ったほうがいいんですよ。時代が巡って「好きなことを、ちゃんとやらない?」というところに戻ってきたと思います。

松田:本当にその通りで、2.5次元ミュージカルの世界でいえば、『おそ松さん』とか「刀剣乱舞-ONLINE-」とか、人気のあるタイトルの舞台化の権利を得れば、今の勢いである程度の動員は約束されます。芝居の中身そのものより前に、原作の人気やパワーが強いのが要因ですし、そうした原作の舞台化をもちろん誰しもやりたいと考えるような現状はありますね。実は今度『パタリロ!』を舞台化するんです。最新の人気コンテンツではないですが、とにかく漫画として面白い。学生の頃に大好きで読んでいたものを、今の自分だったら若いお客さんにも通用する舞台にできると思って、『パタリロ!』をやるんです。

中西:いいですね。

松田:みんなが最先端を取りにいくんだったら、自分はアーカイブの再発見をやろうと。中西さんがおっしゃったように、自分が面白いと思うものをもう一回見直そうと思っているんです。

中西:潜在的に『パタリロ!』のようなテイストが好きな人は、いつの時代も必ずいると思います。

松田:そうですよね。コンテンツを提供する側が、見逃していただけで。漫画やアニメに関していえば、日本人は本当にコンテンツを再利用するのが下手だと思います。ある程度消費してしまうと、箱に入れて、フタをして、鍵を閉めちゃう。まだまだコンテンツとしての魅力はあるし、箱の中は宝物だらけなのに。

中西:昔のセットリストや名盤の収録曲を、そのままライブでやるという企画がありますが、コンサートでもアーカイブを見直す傾向があって、これから流行るんじゃないでしょうか。

松田:面白いですね。そんな風潮があるんですか。

中西:伝説になっているライブのセットリストを、年月が経ってからアーティストが再現することによって、ちょっと不思議な化学反応が起きるんですよ。甲斐バンドは今年、「THE BIG GIG」という1983年に行ったライブのセットリストを完璧に再現しました。Charaは『Junior Sweet』のデビュー25周年記念盤をリリースして、ライブもやるんです。『パタリロ!』の例に近いと思いますね。


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