会報誌 ACPC naviライブ産業の動向と団体の活動をお伝えします。

お客さんに想像力を働かせてもらうライブを続ける先に生まれること

撮影:宇都宮輝

「若い子達にもっと上質なものを知ってもらう仕組みを考えないと」(大宮)
「人が自分の手で生み出すものの素晴らしさを知ってほしいですね」(中西)

「ライブ・エンタテインメント」という枠組は、多くのジャンルの芸術や文化を包括することができます。文学であれば、詩を観客の前で朗読し、小説を原作にした演劇を上演することでライブ・エンタテインメントになりますし、美術であれば、世界に一つしかない絵画を集め、展覧会を開催すれば、それはある種のライブになります。様々なライブでお客さんを楽しませることを実践されているのが、今月のゲスト・大宮エリーさん。左ページに記した肩書きは「作家/画家」となっていますが、大宮さんの表現手段は多岐にわたります。新型コロナウイルスへの対応でライブ・エンタテインメントが岐路に立たされている今だからこそ、柔軟な発想でライブの可能性を考えてみたい―—中西健夫ACPC会長が大宮エリーさんと語り合いました。

想像力を喚起するためのリアルなライブ

中西:最初にお会いしたのは、(チームスマイル・)仙台PITでしたよね。この会場は、復興支援のために再結成したプリンセス プリンセスが義援金を寄附したことで誕生しましたが、その後も岸谷香さんを中心にライブ(2017年3月11日、東日本大震災 復興応援ライブ「The Unforgettable Day 3.11」)をやっていて、その時に色々とお願いをしました。

大宮:もともとは親しくしているMISIAちゃんが出演するはずだったのですが、彼女が体調を崩して出演が難しくなってしまい、私のところにご相談をいただいて。

中西:松尾潔さんと一緒にMCをやっていただきました。

大宮:絵も描きましたね。ステージのバックに飾っていただきました。でも、それ以降の中西さんのイメージは、私にとって「酒場の人」「酒場の男」でした(笑)。

中西:飲んでいる席でしか会わない人 (笑)。

大宮:少し前に私の朗読会(「大宮エリーの音楽と朗読とおしゃべりの虹のくじら」)の楽屋に中西さんが現れて、ビックリしたくらいで。考えてみれば、ディスクガレージさんにお世話になっているイベントだから、当たり前なんですけれど。

中西:あのイベントは面白かったですね。

大宮:普通、「今の時代に朗読会?」と思いますよね。でも、私は今の時代だからこそ詩を読みたいと考えたんです。ただ私が詩を読むだけじゃなくて、ミュージシャンの方にその場で音楽をつけてもらったり、詩から連想される曲を歌ってもらう、あるいはミュージシャンの方にも詩を読んでもらおうと。要は2人でできる映画みたいなものですね。映像は見せずに、お客さんそれぞれの頭の中で絵を描いてもらう映画というか。今は受動の時代になっていると思うんですよ。だから、ある意味で突き放して、詩と音楽は提供するから、みんなでストーリーを描いてね、想像力を使ってねという企画にしたんです。

中西:ポエトリー・リーディングでもないし、新しいジャンルでしたね。

大宮:あの時も中西さんは楽屋にパッと来て「朗読、がんばってね。こういうライブはなかなか理解されないから、ちゃんと啓蒙したり、宣伝したほうがいいよ」とアドバイスしていただきました。

中西:今、映像を頭の中で思い浮かべることをしなくなっていると思うんです。動画サイトでもなんでも、すべて視覚から入ってしまう。自分の想像力で補うことをしなくなると、色々な意味で退化してしまいますよね。

大宮:私もそれはよくないだろうなと思って、使命感で朗読会を始めたんです。朗読会って、カフェとかでやるイメージですけれど、あえて700人入る草月ホールでやったんです。700人を4回(2019年11月13、15日、12月2、4日)。ミュージシャン達からは「あり得ない…」といわれました(笑)。でも、結構反響があって、うれしかったですね。客席で泣いている方が多かったし、終演後のサイン会でも「心がまだすごくバクバクしている」とか、「明日学校に行くのが苦痛じゃなくなりそうです」と感想を話してくれた方がいました。逆にミュージシャン達は口々に「すごく疲れた……この疲れはいったい何?」と話していましたね。

中西:それは心地いい疲れでしょう。ステージに立つ側にとっては、かなりのトライアルだったと思います。普段、演奏している音楽は詞も曲もすでに完成しているものじゃないですか。それを改めて即興で提示するのは、確かに相当疲れますよね。僕も以前ラジオで喋っていたことがあって、ラジオドラマをよくやっていたんです。テーマとなる曲を選んで、その曲の歌詞を噛み砕いてドラマ風に仕立てるのですが、ここぞという場面で急に曲をボン!とかけるんです。リスナーを泣かせようと。

大宮:うわー、最高。それは泣けますね。やっぱりアナログだからこそ面白いものも必要なんですよ。両方をバランスよくといいますか、私もデジタルとアナログをリンクさせていくことをやりたいと思っています。今考えているのは学校をオンライン・サロンで立ち上げることですが、入口はデジタルから設定しないと、なかなか人が集まらないんですよね。一方でトークライブみたいなものにもお客さんが来ているようで、デジタルに慣れ親しんでいる若い人達が、リアルの場に来るようにする方法はきっとあるんですよ。


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