撮影:宇都宮輝
「スポーツと文化、すべて揃った場所からシナジー効果が生まれます」(村井)
「ライブとデジタルコンテンツを同時に楽しめる会場が求められています」(高木)
チケット不正転売禁止法の成立と施行へ向けて、ACPCはスポーツ界との関係を深めてきました。さらにはボールゲーム9競技・12リーグが連携する日本トップリーグ連携機構とともに新しい組織、ECSA(エクサ/Entertainment Committee for STADIUM・ARENA)を設立。スポーツと音楽、両者にとって理想的なスタジアム・アリーナの建築を目指し、より具体的な行動へと歩みを進めました。この流れの先には、一体どんな未来が待っているのでしょうか。Jリーグの村井満チェアマンと中西健夫ACPC会長が語り合います。また、経済産業省の高木美香コンテンツ産業課長も加わり、新たに生まれるライブ・エンタテインメントとデジタル環境の連動についてアドバイスをいただきました。
※この記事は、ライブ・エンタテインメント白書実行委員会が実施した鼎談から、「2019ライブ・エンタテインメント白書」掲載用とは異なる部分を抜粋して作成されたものです。
中西:日本ではあまりチャンスがありませんが、欧米では音楽とスポーツが一緒に披露される機会が多いですよね。その最たる例がスーパーボールのハーフタイムショーで、アーティストがショーを行う時間は短いのですが、世界的に注目される場になっています。
村井:サッカーでいえば、1990年のイタリアでのワールドカップ決勝が代表的な例です。前夜祭がローマの遺跡のカラカラ浴場で行われ、三大テノールのパヴァロッティ、ドミンゴ、カレーラスによる世紀の競演が実現しました。この歴史的なコンサートの中継を世界で9億人くらいが観たといわれています。
中西:音楽もスポーツも根本にあるのはエンタテインメントですからね。だから日本でもジャンル分けするのではなく、どちらも総合エンタテインメントとしてとらえていいと思うんですよ。
村井:ビジネスの世界に長くいた私が、Jリーグというスポーツ団体の責任者になった当初、「そもそもスポーツとは何なんだろう?」とずいぶん考えたんです。色々と調べてみると、中世ヨーロッパのラテン語の「デポルターレ」という言葉が、「スポーツ」の語源のようなんです。本来は「港から離れる」ことを示していて、「労働から離れて余暇を楽しむ」という意味で使われていたそうです。
高木:スポーツと音楽は、ルーツ的には近いところにあったんですね。私は経済産業省で音楽や映画、ゲーム、マンガ、アニメといったコンテンツ産業の振興を担当しているのですが、消費されるコンテンツ自体は現在どんどんデジタル化していまして、中でも音楽の動きが一番速いです。一方で一次音源といいますか、生で音楽に接することができるライブの価値も高まっていますし、様々なジャンルが融合したイベントも増えています。先程お話に出たスポーツと音楽のコラボレーションだけではなく、花火イベントと音楽、さらにはパフォーマンスを融合させるなど、かなり複合的になってきていますね。日本発のそういったイベントは世界的にも注目されていますし、今後も伸びていくのではないでしょうか。
中西:ここにきてようやく、日本でもスポーツと音楽が同じ場に立つ機会が増えてきました。例えばSHISHAMOという川崎出身のバンドが、川崎フロンターレの応援歌をつくったのですが、去年チームが優勝した時にサポーターみんながその曲を歌っている姿を見て、僕もグッときました。こういうことは本当に良いコラボレーションだと思いますね。スポーツのファンの間で、音楽がちゃんと勇気を与える役割を担っていて。