撮影:宇都宮輝
「ボーダレスこそ成長の鍵 『1+1=3』を目指すのは当たり前」(中西)
「ユーザーが求めているのは カテゴリー分けじゃなくて面白さ」(松田)
歌い、踊り、演じることを通じて、同じ場所にいる人達を楽しませる―ライブ=実演は、エンタテインメントの中で最も原初的な表現形態です。だからこそ時代が移り変わっても普遍的な需要があるといえますが、より市場を拡大していくために、常に新しいジャンルの登場が待たれていることも確かです。近年でライブ・エンタテインメントの新たな市場を開拓したコンテンツの代表といえる「2.5次元ミュージカル」。漫画・アニメ・ゲームから派生した舞台コンテンツである2.5次元ミュージカル(原作となる2次元のキャラクターや物語などの世界観をリアルに3次元化=2.5次元)は、既存のライブ・エンタテインメントにも影響を与えながら、公演数を増やし続けています。2014年に設立された日本2.5次元ミュージカル協会の代表理事であり、演劇プロデューサーとしてまさにこのジャンルを牽引してきたネルケプランニングの松田誠会長と中西健夫ACPC会長が「ボーダーを越えるからこそできること」を語り合いました。
松田:以前から中西さんのお名前はもちろん存じ上げておりますし、先輩としてすごい方だなとはずっと思っていたのですが、具体的な交流となると、近いようで遠いジャンルにいるというか……。
中西:確かに以前はお互いが「近いようで遠い」存在だったと思います。でも、今は松田さんのことを「遠いようで近い」と思っているんですよ。
松田:ああ、僕にもそういう感覚があります。
中西:直接的な案件ではなくても、お仕事でご一緒する機会があったり、「えっ? ここで松田さんとつながるの」みたいなこと、多いじゃないですか。ゆっくり話したことはなくても、松田さんとは目指すところが近いような気がするんです。なんというか、僕は音楽に全く執着していなくて……いや、もちろん音楽は大好きですが、音楽以外にも面白いことはたくさんありますから。
松田:まさに僕もそうで、演劇だけに執着しているわけじゃないんです。エンタテインメント全体に興味があるし、とにかく面白いものが大好きなんですよ。もともと中西さんはコンサート業界の方で、僕は演劇系ですが、今はもうボーダレスになってきていますよね。
中西:逆にいえば、ボーダレスこそ成長の鍵なんだと思います。昔だったら「あの会社とあの会社が合併するなんてウソだろ」だったんですが、最近は何が起きても驚きません。「1+1=3」を目指すのは当たり前になってきたんじゃないでしょうか。
松田:完全にそうですよね。うちも合併こそしないまでも、他社と強いパートナーシップを結んで仕事をする例は少なくないですね。自然に手掛けるジャンルもボーダレスになってきています。例えばミュージカル『テニスの王子様』では、横浜アリーナやさいたまスーパーアリーナで出演者によるコンサート「Dream Live」もやっていますし、逆にアーティストが「芝居をやりたい」と提案してくる例もあります。歌手は歌手だけとか、役者は役者だけという時代じゃないですよね。業界側はついついカテゴリー分けしがちですが、実はユーザーにとってそんなことはどうでもよくて、単純に面白いステージを観たがっているのだと思います。
中西:2.5次元ミュージカル自体がカテゴリーを越えたものですからね。
松田:ざっくりいえば新ジャンルだとは思います。でも、全くなかったわけじゃないです。日本人には、いわゆる欧米コンプレックスがあるので、ディズニーの『アラジン』や『美女と野獣』の舞台化は普通に受け入れてきたわけですよ。それが日本の漫画をミュージカルにするとなると、上の年代の方は急に抵抗を感じるみたいですね。でも、若い世代は全く抵抗なく受け入れてくれます。
中西:それは「漫画」という言葉に親しんできた世代か、アニメ世代かの違いかもしれませんね。
松田:確かにそうですね。アニメ世代は、子供の頃からアニメを観ているし、漫画も読んでいます。だから両方にリスペクトがあるし、そこから学んだことも多い。昔は親に「漫画ばっかり読んでいるとバカになるよ」といわれていましたから。僕もそうですが(笑)。
中西:セリフ一つからでも何かを学んでいるんでしょうね。「なるほど。友達とはこういうものなんだ」とか。
松田:名ゼリフ、名シーンから影響を受けて。
中西:少し前だと漫画やアニメ好きは「オタク」と呼ばれていましたが、それもなくなってきているでしょう。
松田:もうマイノリティじゃないですからね。僕の実感だと、今の中高生の7〜8割は漫画・アニメが好きなような気がします。