撮影:宇都宮輝
「夜間市場の創出は、世界の基準で考えたら
ごく当たり前の話ですね」(中西)
「ライフスタイルの多様性を許容するのが
都市の役割です」(梅澤)
「人」が未来へのヴィジョンを描き、「街」と「文化」をともに変えていく―。言葉で記すのは簡単ですが、実際にやろうとするとそこには様々な壁が立ち上がってきます。2020年の東京オリンピック・パラリンピックを前にして、多くの人々が「世界の中の日本」を意識せざるを得ない今、その壁を乗り越えようとしている一人がA.T.カーニー日本法人会長・梅澤高明さんです。世界40カ国以上に拠点を持つグローバルな経営コンサルティングファームの日本法人を率いながら、経済産業省や内閣府の委員として都市開発や知財戦略についての提言を続けてきた梅澤会長は「アート、カルチャー、エンタテインメントこそが、東京と日本が一番大事にすべきもの」という考えの持ち主。中西健夫ACPC会長と「壁を乗り越えようとする仲間」として、ライブ・エンタテインメントのあるべき姿や、東京および日本の各都市をどう変えていくべきかをディスカッションしました。
中西:梅澤さんと最初にお会いしたのは3年くらい前ですよね。東京を海から見ることで何を感じられるか、船上で政治家や築地の魚河岸にお勤めの方々など、他業種の皆さんが集まって語り合う会があって。
梅澤:僕はもともとカフェ・カンパニーの楠本さん(楠本修二郎代表取締役=VOL29掲載の本連載に登場)から「中西さんに絶対会ったほうがいいよ」といわれていたんです。楠本さんとは東京の将来都市ヴィジョンを考える民間チーム、NEXTOKYOを立ち上げていたんですが、東京の街で一番活用されていない資産は夜間市場と水辺だというコンセンサスが最初からあって、東京湾に1回行ってみようよという企画が持ち上がりました。そこに「中西さんも来るから」と楠本さんに誘われて参加したんです。
中西:僕もあの場で色々なことを考えたのですが、日本は海に囲まれているにもかかわらず、東京ではウォーターフロントの活用が全くできてないという現実を強く感じました。例えば富裕層がヨットで東京に来たとしても、「どこに着けられるんですか?」という話を聞き、確かにそうだなと。目立つエリアにヨットハーバーをつくるという発想自体がないんですね。
梅澤:世界の主要都市のなかで、水辺にこんなに魅力のない都市は東京だけだと思います。我々はNEXTOKYOで様々な提案をしていまして、その一つに東京湾の西側にあるいくつかの埠頭を、エンタテインメントのエリアにできないかというアイディアがあります。例えば倉庫を居抜きで改装して、ライブを楽しめるスポットをつくれないかと。でも土地のオーナーさんがいて事業者が必要で、そこでどういう座組みでやっていくんだとなると、課題が山積みになってしまうんです。
中西:法律や既得権益の問題もありますしね。
梅澤:民間でも非常にがんばっておられる企業さんもあるのですが、一つのスポットを立ち上げるために、もう信じられないくらいのエネルギーと時間がかかってしまう。圧倒的なパッションと継続力がある会社くらいしか進出できないのが現状ですが、ウォーターフロントにはあまり使われていない土地や会場があるんだから、それを楽しい場所に変えようよと。もう少しハードルが下がって、色々な事業者が開発に参加できるようにならないと、本当にもったいないと思うんですよね。
中西:ライブ・エンタテインメントに関わっている人間として、今のお話に同感です。梅澤さんはバンドをやっていらしたこともあって、我々と非常に近いヴィジョンをお持ちだと思います。
梅澤:ただ単に音楽が好きで、大昔にバンドをやっていただけですが、残念ながら腕が足りないと自覚して、普通のビジネスパーソンになる道を選びました。今でも音楽を含めた様々なエンタテインメントは好きですし、日本発のコンテンツをもっと盛り上げていきたいと思っていたところに、クールジャパンという取り組みに参加する機会があり、ずっと伴走を続けています。クールジャパンを進めるには、日本の発信力が高まり、日本のカルチャーに対する尊敬と興味が世界中に広がることが必要条件なので、アニメだけではなく音楽や映画、ドラマなども、もっとその魅力を世界へ届けられたらと思っています。
中西:僕らは普段、国内のコンサートをプロモートして、どう興行として成功させるかを考えますが、もう少し広い見地で日本のカルチャーをどう世界に出していくかを考えると、個社の立場とは全然違う課題が見えてきますよね。日本の閉鎖的なところ、封建的なところ、変えていかなきゃいけないこと……ありがたいことに僕はよく海外に行く機会があって、現地で色々な情報を知れば知るほど、なんとか変えていくきっかけをつくらなくてはと痛感するんです。