撮影:小山昭人(FACE)
「海外で邦楽曲がどれくらい使われているか
把握するための実証実験に着手しました」(桑波田)
「演奏権使用料を支払う立場として、
僕らも海外の状況を知っておくべきです」(中西)
ライブで演奏される楽曲は、安定した創作環境があってこそ生まれるものであり、そのためには作家に対する正当なリターンが不可欠。音楽に接することが日常的になっているコンサートプロモーターにとって、楽曲の演奏権使用を申請する時以外は、こんな当たり前のことを強く意識する機会は意外と少ないのかもしれません。作家の育成・マネージメントから楽曲のプロモート、著作権・著作隣接権の管理まで手がける音楽出版にとって、楽曲はまさにビジネスの「核」。実は楽曲の制作や管理を巡る状況は、近年大きく変化しつつあります。日本音楽出版社協会会長であり、日音代表取締役社長の桑波田景信さんをお招きし、演奏権使用料改定に関する団体交渉で最前線に立つ中西健夫ACPC会長がお話を伺いました。時代に合わせた若手作家の育成スキーム、チャートインする曲の背景、海外のクリエーターとの密接な連携……「音楽出版社=著作権管理」という従来のイメージを覆す話題の数々が語られました。
中西:ACPCの会員社の若手スタッフは、音楽出版社が実際にどんな仕事をなさっているか、今ひとつピンときていないと思うんです。この対談がいい機会になればと思っていますので、その辺りのお話から始められれば。今日こうやって日音さんにお邪魔してみると、オフィスに足を踏み入れるだけで、ずいぶんと実態が分かることもあるように思いました。
桑波田:エントランスからオフィスに進んでいくと、小さなスタジオのような部屋が並んでいたと思いますが、我々はあの部屋をプリプロルームと呼んでいます。今は作家が作品を納品する際、バックトラックは完パケのレベルのものをつくっていかないと、コンペに勝ち残れないんです。だからそのためにロジックやプロトゥールスといった制作ツールを使って作業をするスペースが必要で、機材についても最先端のものに更新し続けて作家の創作環境を整備しています。
弊社には様々な作家が所属しているんですが、2012年から、大学や専門学校を卒業した新卒の人を3年間だけ新人作曲家として契約する制度を立ち上げました。その3年間は僕達が色々な仕事も含めてバックアップします。ただし、すぐにプロにはなれないですから、その間に会社にストックするライブラリー音源を制作してもらったり、様々な形で自分のつくった音源が放送や映画で流れる感動を少しずつ味わってもらうんです。そんな中で1期生の、29歳の2人が映画やテレビドラマの劇伴(*1)の仕事をできるようになっています。
中西:インターン制というか、そんなやり方で作家を育成しているんですね。
桑波田:昔であれば作曲家になろうとすると先生の内弟子になって、住み込みでアシスタントをしたり、アンダーライターといって名前を出さずに曲を書いたりして、プロの厳しさを学んでいったわけです。時代が変わってきたとはいえ、音楽大学を出ても音楽で食べられる人が少ない状況は一緒ですので、我々がソングライターや劇伴作家志望の若者を応援したい、曲をつくるためのサポートをしたいということですね。
中西:作家の育成は音楽出版社の根幹なんですね。