地方創生。日本代表エンタテインメント 実現させるポイントは異業種間コラボ
撮影:宇都宮輝(鋤田事務所)
「あらゆる文化が大都市に集中しているという現状は、 全国組織であるACPCにとっても、大変重要な問題です」(中西)
「どこでも同じような街並になってしまうと面白くない。 私達は常に地域の特徴に応じたプロデュースをしています」(加藤)
上の写真はカトープレジャーグループが運営するコンサートホール、Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASUREの客席。中西健夫ACPC会長と、対談のお相手である同社代表取締役兼CEOの加藤友康さんが身を預けている椅子は、他のホールに設置してあるものより、明らかに座り心地がよさそうに見えます。「たかが椅子」ですが、「されど椅子」であることも確か。そこには様々なリゾート施設、ホテル、旅館、飲食店などをプロデュースしてきたカトープレジャーグループのノウハウ、そして中西会長のアドバイスも活きています。2013年の人材育成研修会で講師を務めていただいただけではなく、懇親会では同社が運営するSHOWER LOUNGE PLUSを会場として提供くださるなど、ACPCとも関わりが深い加藤さんと中西会長の会話は、ライブ・エンタテインメントと街の関係から、日本の文化全体へと広がります。
加藤:中西さんと出会ったきっかけは、まさに今日、対談をさせていただくこの建物(渋谷プライム)で私どもが手掛けるエンタテインメント・レストラン(現SHOWER LOUNGE PLUS)でした。上階が映画館だったのですが、ビルのオーナーから映画館のスペースを活かして何か新しいことをやって欲しいと依頼があり、コンサートホールを始めようと考えました。それでお付き合いのあったパーカッショニストの斉藤ノヴさんに相談したんですね。ノヴさんから、すぐに言われたのは「ディスクガレージさんにアドバイスをもらったほうがいい」。ということで、中西さんにご挨拶しに伺ったのですが、ご協力を約束してくださって、以降は本当にもう頼りっぱなしです(笑)。
中西:僕は単純に人との縁は大切にしたいと考えているだけなんです。ノヴさんからのご紹介であれば、そのつながりは大事にしたいと思いますし、もともと大好きだった沖縄のKafuu Resort Fuchaku CONDO・HOTELを加藤さんの会社が運営していたという縁もありましたので、僕からすれば加藤さんが訪ねてこられた時、「これで自分の好きな場所、人がつながった」という気持ちでした。
加藤:我々も商業施設についてはプロなので、どんな業態でのオープンに際しても、全部マーケティングはします。渋谷という立地、施設の設備なども検討して、最終的にどんなお客様をターゲットにするか絞り込みましたが、中西さんは一瞬で「これは大人向けにしたほうがいいですよ」とおっしゃったんです。「そのためには、この映画館の椅子は絶対そのまま使ったほうがいいです」と。マーケッターであれば普通、渋谷という場所柄「若い人がスタンディングで楽しむライブ会場」と考えがちだと思うんです。でも、中西さんは全く逆の見方を示してくださって、自分もそれに賛同してMt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASUREをオープンさせることができました。
中西:こんな立派な椅子のコンサートホールなんて他にないじゃないですか。大人のお客さんに「ああ、あのホールなら居心地がいいね」と足を運んでもらえると思ったんです。実際に今、PLEASURE PLEASUREはそういうポジションを確立していますよね。
加藤:やはり最初の設定が大事なんですね。隣にある劇場、CBGKシブゲキ!!の時も同じような流れでした。私達はPLEASURE PLEASUREの成功を受けて、もう一つホールをオープンしようと考えていましたが、中西さんは「絶対ダメですよ。隣が音楽だったら、もう一つは演劇でいきましょう」と。
中西:文化は加藤さんや僕らのような立場の人間が意識的に創造していかなくちゃいけないと思うんですよ。もちろんマーケティングも大事だと思いますが、渋谷駅の周辺も都市開発で大きく変わる兆しがありましたし、新たな路線の乗り入れで、主婦層を含めた郊外の大人の人達が渋谷に足を運びやすくなりました。そういった新しい渋谷の魅力に対応した文化を、僕らが意識的にどう用意していくかということじゃないでしょうか。
加藤:現在は全国的に、あらゆる文化が都市部に集中していく傾向があります。住居も商業ゾーンも、都市部にある高層ターミナルに一極集中してきています。国や大企業が考える都市開発の側面から見ると、それは正しいことなのかも知れませんが、中小零細の我々は一極集中型の大型開発だけではなく、別の面を見なくてはいけない。例えばどんな街にも、ちょっと猥雑というか、文化的ないかがわしさというか、そういった部分は残していかなければならないし、これからも必要だと思うんです。だから、レストランを立ち上げる時でも、「いかがわしさの重要性」をよく口にしています。
中西:絶対大事ですよね。僕らにとっても、あやしい横丁にたむろして、色々な経験をしたことが必ず仕事にも活きてきますから。犯罪につながるようなものではなく、スレスレの色気や猥雑さは、文化や芸術、エンタテインメントにはいい影響を与えると思いますね。
加藤:どこでも同じような街並になってしまうと面白くないですよね。飲食店の経営でも、チェーン店で画一的なサービスを提供するのは確かに効率的なんですが、どうしても好きになれないんです(笑)。私達は常にその地域の特徴に応じた店舗やリゾート施設をプロデュースできればと考えています。
中西:つるとんたんの六本木店に、遊び心満点の檜風呂があるじゃないですか。あれを見れば加藤さんの姿勢が伝わってきます。どう考えても、うどん屋さんにお風呂はいらないじゃないですか(笑)。でも、お風呂があることで、他の店とは違う魅力、僕らが足を運びたくなる何かが醸し出されることも確かだと思います。