会報誌 ACPC naviライブ産業の動向と団体の活動をお伝えします。

802とCOCOLO 1社2波の棲み分け

PROFILE つゆり・ひかる
1948年生まれ。大学卒業後の71年にラジオ大阪( 大阪放送株式会社)入社。報道部に配属され、約5 年間、放送記者を務める。制作部に異動後は、「ニューミュージック・イン大阪」「JAMJAMイレブン」など数々の番組の制作に携わりつつ、放送局が手掛ける音楽イベントの先駆けである「J A M J A Mスーパーロックフェスティバル」なども開催。88年にFM802入社、89年に開局。同年からはイベント「ミート・ザ・ワールド・ビート」(スタート時は「FUNKY ROCK '89」)も手掛ける。93年からの編成部長、その後取締役を経て現職。FM802は、2012年4月の事業譲渡を受けて、現在はFM COCOLOを加えたFM2波を運用。

中西:栗花落さんのお話を聞いて改めて思いますが、ラジオはやっぱり特別な存在なんですよ。僕も無類のラジオ好きで、ヘビーリスナーだった学生時代から、ラジオのDJをやってみたいという夢があって、「オールナイトニッポン」でしゃべったり、BayFMで番組を持っていたりもしました。そういった経験も含めて、例えば曲をかけるにしても、曲に対する思いをしゃべり手がすごく大切に伝えなくてはいけないと思うんです。今も昔もラジオにはそういう使命があるような気がしているんです。

栗花落:だから最近よく話すんですよ、「べっぴんさんラジオをつくりたい」と。「べっぴんさん」ってね、きれいな女性を意味する言葉かと思っていましたが、それは「別嬪」であって、「別品」と書く場合は違う意味になる。僕もNHKの朝のドラマを観て知ったんですが、特別な人のために、特別な思いを込めて、特別なものをつくることなんです。特別な人というのは、音楽を本当に愛している関西のラジオ・リスナー。特別な思いは、そういう人達に聴いてもらいたいというラジオのつくり手側の気持ち。特別なものとは、リスナーとつくり手の愛情が溢れたラジオ番組、ラジオ局。FM802は、べっぴんさんラジオにならなくてはいけないと改めて思います。

中西:とにかく新曲をかけていくという番組もいいと思いますが、丁寧に曲をちゃんと聴いて、DJが自分の思い入れを込めて好きな音楽を紹介していくことが大事だと思いますね。DJが気持ちを伝えることによって、CDであれば10枚か15枚かもしれないけど、より多く売れることが必ず起きるんですよ。

栗花落:今、中西さんがおっしゃったことは非常に大切で、ラジオは曲がかかるだけじゃなくて、DJがいる。このDJの存在がすごく大きいんです。同じアーティスト、同じ曲でも、そこにDJの語りが加わることによって、曲のイメージがもっともっと大きく広がると思うんですよね。
そこがラジオの素晴らしさなんです。

中西:本当にそう思います。

栗花落:だから僕はDJがいなくて、音楽だけ流すのであれば、それはラジオではないと思っています。FM802が「listen to the music」じゃなくて、「meet the music on the radio」というキャッチ・フレーズを使い続けているのは、そこなんです。音楽を「聴く」のではなく「出会う」のがラジオ。例えばCDを聴くとか、ライブに足を運ぶとか、自分の聴きたいものを聴くのが「listen to」だと思うんですよ。でも、ラジオはDJが選曲したり、リスナーのリクエストで曲がかかるわけですから、たまたま流れてきたものと出会う。新曲もそうだし、昔の曲が久し振りに耳に入ってきて、初恋の人を思い出すこともあるかもしれない。自分が選んだものを聴くことも大事な音楽体験ですが、その体験を広げるのがラジオの役割だと思います。

中西:そういった意味で、FM COCOLOの存在は大きいですよね。音楽と結びついた思い出を持っている人は、それこそ日本中にたくさんいるわけですから。音楽によってそれが偶然にでも蘇ってくるような体験を提供できるメディアって、実はありそうでなかったんじゃないでしょうか。それとover40に愛されているヒット曲は、実は若い人もみんな知っていたりするんですよね。

栗花落:確かにそうですね。新しいリスナーに愛されて、ヒット曲は成長しますし、うたっているアーティストも進化していますから。だからFM COCOLOでは、昔の曲をかけるだけじゃなくて、うたっているアーティストの現在も伝えていきたいんです。2月のマンスリー・アーティストには吉田拓郎さんを選び、ライブDVDに収録されている新曲「ぼくのあたらしい歌」をワイド番組のエンディングでオンエアしました。

中西:曲がかかるだけではなく、年齢を重ねたアーティストがリアルな今の思いを語れる場としてもFM COCOLOは貴重だと思います。テレビじゃないし、インターネットでもない。ぬくもりも伝えられることがラジオというメディアの役割ですよね。

栗花落:FM COCOLOにはFM802とは違う役割があるんです。もともとラジオ局は、1社1波で運営していくのが基本ですが、802が89年の開局当初にターゲットにしていた10代、20代のリスナーは今、40代、50代になってきているわけですから、1波だけでやっていると、どこをターゲットにしたらいいのか当然難しくなってきます。そこで思い切ってもう1波、COCOLOも運営して、長年802に親しんでくださった方々にそのまま聴いてもらえるラジオ局にしたかったんです。だから開局当初のDJやスタッフも、そのままCOCOLOに移ってきています。802はもう一度、新しく開局する気持ちで18歳の感性に応えられる局を目指していますので、その棲み分けがより重要になってきています。

中西:コンサート業界でも今、同じことが起こっていて、50歳以上のお客さんが増えているじゃないですか。そうすると警備の仕方にしてもシステムをカスタマイズしなくてはいけない。例えば年配のお客さんが多い公演では「客席が暗い、席番が見えない」と言われたり。でも確かに老眼だと見えないですし、考えてみれば僕も見えないんです(笑)。だから、お客さんのおっしゃる通りなんですよね。ラジオが1社2波の運営で棲み分けをしているとするなら、僕らもコンサートの運営を2ウェイ、3ウェイで考えていく必要がでてきているんです。


関連記事

[SPRING.2024 VOL.51] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol. 35 松本隆(作詞家)

[AUTUMN.2023 VOL.50] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol. 34 さだまさし(シンガー・ソングライター、小説家)

[AUTUMN.2023 VOL.50] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol. 33 島田慎二(B.LEAGUE チェアマン)

[SUMMER.2023 VOL.49] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol. 32 檜原麻希(株式会社ニッポン放送 代表取締役社長)

[SPRING.2023 VOL.48] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol. 31 横田健二(日本舞台技術スタッフ団体連合会 代表理事)

[WINTER.2023 VOL.47] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol. 30 都倉 俊一(第23代文化庁長官)

[SUMMER.2022 VOL.46] 中西健夫ACPC会長連載対談 SPECIAL 音楽4団体座談会

[SPRING.2020 VOL.45] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol. 28 大宮エリー(作家/画家)

[WINTER.2019 VOL.44] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol. 27 髙田旭人(株式会社ジャパネットホールディングス代表取締役社長 兼 CEO)

[AUTUMN.2019 VOL.43] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol. 26 村井満(日本プロサッカーリーグ理事長/Jリーグチェアマン)高木美香(経済産業省コンテンツ産業課長)

[SUMMER.2019 VOL.42] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol. 25 野村達矢(一般社団法人 日本音楽制作者連盟理事長/株式会社ヒップランドミュージックコーポレーション代表取締役社長)

[SPRING.2019 VOL.41] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol. 24 石破茂(自由民主党衆議院議員/ライブ・エンタテインメント議員連盟会長)

[AUTUMN.2018 VOL.39] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol. 23 後藤 豊(フォーライフミュージックエンタテイメント代表取締役社長)

[SUMMER.2018 VOL.38] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol. 22 梅澤高明(A.T. カーニー 日本法人会長)

[WINTER.2018 VOL.36] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol. 21 桑波田景信(一般社団法人日本音楽出版社協会会長)

[AUTUMN.2017 VOL.35] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol.20 湯川れい子 音楽評論家・作詞家

[SUMMER.2017 VOL.34] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol.19 平田竹男 内閣官房東京オリンピック・パラリンピック推進本部事務局長

[WINTER.2017 VOL.32] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol.17 川淵三郎(一般社団法人 日本トップリーグ連携機構代表理事 会長)

[AUTUMN.2016 VOL.31] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol.16 松田誠(一般社団法人 日本2.5次元ミュージカル協会代表理事/株式会社ネルケプランニング代表取締役会長)

[SUMMER.2016 VOL.30] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol.15 斉藤正明(一般社団法人日本レコード協会会長/株式会社JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント代表取締役社長)

[SPRING.2016 VOL.29] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol.14 楠本修二郎(カフェ・カンパニー株式会社 代表取締役社長)

[WINTER.2016 VOL.28] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol.13 門池三則(一般社団法人日本音楽制作者連盟理事長/株式会社バッド・ミュージック代表取締役社長)

[AUTUMN.2015 VOL.27] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol.12 岸谷 香(シンガー・ソングライター/元プリンセス プリンセス ヴォーカル)

[SUMMER.2015 VOL.26] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol.11 朝妻一郎(一般社団法人日本音楽出版社協会顧問/株式会社フジパシフィックミュージック代表取締役会長)

[SPRING.2015 VOL.25] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol.10 相馬信之(一般社団法人日本音楽制作者連盟理事/株式会社アミューズ常務取締役/株式会社A-Sketch代表取締役社長/株式会社TOKYO FANTASY代表取締役社長)

[WINTER.2015 VOL.24] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol.09 堀 義貴(一般社団法人日本音楽事業者協会会長/株式会社ホリプロ代表取締役社長)

[AUTUMN.2014 VOL.23] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol.08 加藤友康(カトープレジャーグループ代表取締役兼CEO)

[SPRING.2014 VOL.22] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol.07 亀田誠治(音楽プロデューサー/ベーシスト)

[WINTER.2014 VOL.21] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol.06 大石征裕(日本音楽制作者連盟 理事長)

[AUTUMN.2013 VOL.20] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol.05 為末 大(元プロ陸上選手)

[SUMMER.2013 VOL.19] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol.04 紫舟(書家)

[SPRING.2013 VOL.18] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol.03 加藤裕一(株式会社レコチョク 代表執行役社長)

[SPRING.2013 VOL.17] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol.02 中西大介(日本プロサッカーリーグ理事)

[WINTER.2013 VOL.16] 中西健夫ACPC会長連載対談 vol.01 ゲスト 尾木徹(日本音楽事業者協会 会長)

同じカテゴリーの記事

[SPRING.2024 VOL.51] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol. 35 松本隆(作詞家)

[AUTUMN.2023 VOL.50] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol. 34 さだまさし(シンガー・ソングライター、小説家)

[AUTUMN.2023 VOL.50] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol. 33 島田慎二(B.LEAGUE チェアマン)

[SUMMER.2023 VOL.49] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol. 32 檜原麻希(株式会社ニッポン放送 代表取締役社長)

[SPRING.2023 VOL.48] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol. 31 横田健二(日本舞台技術スタッフ団体連合会 代表理事)

[WINTER.2023 VOL.47] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol. 30 都倉 俊一(第23代文化庁長官)

[SUMMER.2022 VOL.46] 中西健夫ACPC会長連載対談 SPECIAL 音楽4団体座談会

[SPRING.2020 VOL.45] 3つのディスカッションから見えてきた、スポーツとエンタテインメントの接点

[SPRING.2020 VOL.45] 中西健夫ACPC会長連載対談 Vol. 28 大宮エリー(作家/画家)

[WINTER.2019 VOL.44] イギリスに学ぶ「ライブ・エンタテインメントへのアクセシビリティ向上」

もっと見る▶