会報誌 ACPC naviライブ産業の動向と団体の活動をお伝えします。

つくってバラして、採算をとる

島田慎二
PROFILE しまだ・しんじ
1970年生まれ。92年、株式会社マップインターナショナル(現株式会社エイチ・アイ・エス)入社。95年に退職後、法人向け海外旅行を取り扱う株式会社ウエストシップを、2001年に海外出張専門の旅行を取り扱う株式会社ハルインターナショナルを設立。その後、2010年コンサルティング事業を展開する株式会社リカオンを設立し、代表取締役社長就任(現任)。2012年、株式会社ASPE(現株式会社千葉ジェッツふなばし)代表取締役社長就任。B.LEAGUEでは2015年に理事、2017年に副理事長などを歴任。2020年より現職。また、日本トップリーグ連携機構理事、全日本テコンドー協会理事も務める。

島田:私は音楽が好きで、よくコンサートに行くんです。今年も様々なアーティストのライブに足を運んでいますが、いつも思うのは1回のコンサートのために、あれだけの舞台を設営して、バラすのは本当に大変だなということです。我々にも会場設営はありますので、ご苦労が分かるといいますか。

中西:家を建てて、すぐに更地に戻すことを繰り返しているような毎日ですよ(笑)。

島田:出演料もありますし、会場使用料もかかって、設営・撤収関連の諸々の出費も積み重なっていくわけじゃないですか。とにかくお金がかかりますよね。コンサートに携わる方々が、アリーナの構造がもう少しこうなっていれば、うまくセットアップできて、採算がとれるようになるのに……とおっしゃる気持ちがよく分かります。コストダウンの方法をアリーナとともに模索するのは、これからのエンタテインメント産業にとって課題の一つになってくるわけですよね。

中西:そこは本当に大きな課題です。さらには人手不足、働き方改革の問題も加わってきますから。

島田:つくってはバラす日常が避けられないとするなら、なるべくシンプルなセットでお客様を楽しませることができたほうがいいでしょう。ライブのどこに価値を感じるかによって変わってくると思いますが、そこまで舞台や照明をつくり込まなくても、お客様の満足につながるものを提供できる方法があればいいわけですから。同じ興行にかかわる人間として、コストのことはとても気になります。

中西:新しくできたKアリーナ横浜が一つのトライアルになると思います。コンサート専用会場と打ち出されていて、音響や照明の機材が備わっているステージが設置されているんです。あとは各コンサートのセットを載せるだけで、2万のキャパシティですから採算性が変わってくるはずです。

既成概念を崩していくために

島田:それとチケットの価格の問題もありますよね。B.LEAGUEではチケット代が上がってきているんです。アリーナが整備されたり、選手の人件費も上がってきて、採算をとろうと思ったらチケット代に転嫁していくしかない。チケット代が高くなって、お客様が減ってしまうかもしれないリスクをヘッジできるのは、スポンサーの方々の存在があるからです。もともと興行だけで採算がとれているわけではなく、スポンサー料が売上構成比の6割くらいを占めていますから。興行だけで採算をとろうとすると、やはりコストの問題、チケット価格の設定には悩まされます。

中西:今、B.LEAGUEのチケットの平均単価はどれくらいですか?

島田:B1の試合ですと4千円くらいです。

中西:決して高くはないですよね。

島田:とはいえ年間60ゲームあって、毎試合観に行きたいお客様のことを考えると、そこそこじゃないかと思います。高い席だと数万円のものもありますし。日本一を決めるファイナルの場合は、横浜アリーナを会場にして、価格設定も強気でいけるんですよ。でも、各クラブが地元での試合で値上げするとなると慎重になりますよね。

中西:コンサートでは曜日によって金額を変える、ダイナミック・プライシングを導入しようとしている動きもあるのですが、なかなか難しい面もあります。お客様によって可処分所得は違いますし、月曜日と土曜日ではライブの価値も変わってくると思いますので、価格に幅があることが当たり前になる感覚を浸透させたいんですけどね。例えばスポーツの興行であれば、同じスポーツを部活でやっている学生にとって、土日は試合があるけれど、平日だったら観に行けるかもしれない。コンサートでもスポーツでも、チケット価格をライフスタイルに合わせることはできると思うんです。

島田:会場の使用料は変わっていくのでしょうか。

中西:変えなくてはいけないと思います。僕は土曜日と月曜日では金額が倍でもいいと考えています。

島田:その発想は面白いですね。

中西:ホテルの宿泊料を考えると、それくらいの差はありますからね。会場の使用料に合わせて、土曜日だと8千円、月曜日は3千円だったら観にいこうという人がいるかもしれないですからね。

島田:それは間違いなく、いるでしょう。外国人でも日本人でも富裕層の方々は、極端にいうと100万円でもいいわけですよね。去年、私も行きましたが、青森のねぶた祭りの桟敷席は100万円でした。それで充分売れるわけです。

中西:チケット価格の問題は一つの例ですが、既成概念を崩していきたいと思っているんです。
島田さん、一緒に崩しませんか。

島田:ぜひ、やりましょう。


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