川淵:基本的にプロスポーツは、観客動員がすべてなんです。お客さんに観に来ていただいてこそ、スポンサーが集まり、さらに多くの人々に夢を与えることができる。Bリーグ立ち上げ当時のバスケットボールの状況は、最高の収容人数でも3000人くらいの体育館で、「土足厳禁」「物販禁止」という会場で試合を行っている例がほとんどだったんです。こんな状況でプロとして成功できるわけがないじゃないですか。だから「もしプロとしてやるなら、5000人収容できるアリーナが必要で、Bリーグに参加するためには、5000人のアリーナを確保できるクラブしか認めない」と言ったのですが、当時はほとんどの関係者が「なにをバカなことを……」という顔をしていました。それで「初めにアプローチすべきは、体育館を貸してくれるように頼みにいく教育委員会ではなく、市長とか知事とか、その体育館を持っている地方自治体のトップだ」と話しました。「市長に会って説得しよう、僕も同席して説得するから」と。中西さんにも相談しながら「体育館という呼び方は使う人の立場の言葉であって、観客のことをまるで考えていない。観る人の立場からするとアリーナ。アリーナをつくるために、市長も協力していただけたら、絶対にプラスになります。我々も必ず地域社会のためにバスケットボールを通じて努力していきます」と説得を始めたんです。結果的に京都と滋賀と奈良の3つのクラブが動き出して、「そういうことならばつくりましょう」という方向に進みました。その後、独自に動いてくれたクラブも増えて、1ヶ月後、20の市長さんが「5000人収容のアリーナをつくります」と言ってくれたんです。
中西:最初にアリーナの計画が出たのが20を超える数でしたよね。まだ全部は建設に至っていませんが、当時の川淵さんの行動力が我々コンサートをやる立場にとっても救世主になったのだと思います。
成功するわけがないことを実現させるために
強い信念を持ってほしいと思います。
川淵三郎
日本トップリーグ連携機構代表理事会長
川淵:Jリーグを立ち上げた経験から、自分自身は確信を持ってやっていましたが、アリーナを立ち上げる過程で自信を持てるようになったのは、ちょうど10年前です。トヨタに行った時、会議の最中に豊田章男会長がサプライズで参加してくれて……「川淵さん、東京オリンピックが終わったら、フジテレビの横の敷地にアリーナをつくりますから安心してください」と約束してくれた時です。
中西:そうでしたね。ここ、TOYOTA ARENA TOKYOができた場所は、もともとZepp Tokyoというライブハウスがあった場所なんです。
川淵:10年後、その時の約束を守ってくれて本当にうれしかったし、Bリーグの設立に向けた流れが大きく動いたと思います。
中西:Mr.Childrenの東京ドームでのライブにお誘いしたこともありましたね。メンバーの桜井(和寿)さんが大のサッカー好きだということもあってお誘いしたのですが、川淵さんがドームで「なるほど」とおっしゃったのが、物販スペースを見学した時でした。「これはすごい。スポーツ界にはない」と。
川淵:エンタテインメントは、入場料で潤っているものだとばかり思っていたのですが、実は物販の利益が大きいと知りました。商品を幅広く揃えて、どういうものが売れているのか、その日の売上をすぐにデータ化して、中国へ発注すると聞いて、その緻密さに驚いたんです。音楽業界のビジネスはもっとアバウトなものだと思っていたのですが……(笑)。
中西:ライブマーケットが高まっていくにつれて、物販の比重が高まってきて、まさにマーチャンダイジングといいますか、データを優先して一番売れるいいものをつくるようになっていきました。確かに物販は音楽業界のほうが進んでいたかもしれませんが、今のBリーグの試合を観ると、僕らが学ぶべきところもたくさんありますよ。会場のムードは音楽イベントに近いですから。音楽がガンガン鳴っていて、DJが盛り上げているあの雰囲気を体験すると、音楽との相性の良さを感じます。
川淵:Bリーグの試合は確かにそうですね。Jリーグでも立ち上げの時、僕は音楽関係の人に「ハーフタイムでお客さんが歌える曲をつくってください」とお願いしたんです。アメリカのメジャーリーグでは、7回裏に「私を野球に連れてって」を観客が歌うじゃないですか。サッカーにもああいうものが必要だと思って。それでお会いしたのがTUBEのギタリストの春畑(道哉)さんで、春畑さんが「歌はなかなか難しいです。でもインストの曲ならいいものがありますよ」と言って、デモテープを聴かせてくれたのが「J'S THEME(Jのテーマ)」でした。パッと聴いた瞬間に、「これだ!」と決めました。今でも聴くと涙ぐんでしまうほどの名曲だと思っています。音楽には多くの人の心をひとつにする力がありますよね。



















