依田:MUSIC AWARDS JAPANを今年の5月に開催するのは、ベストなタイミングではないでしょうか。1998年、当時の韓国のキム・デジュン大統領が「1台の車を売るよりも、1本の映画を売ろう」と、国を挙げて文化産業振興を推し進め、韓流が生まれました。韓国のSMエンタテインメント創業者のイ・スマンさんと私はすごく仲がよくて、当時、彼と話していたのは「ペセト」というキーワードでした。つまり「北京・ソウル・東京」です。この3エリアへの進出を日本のエイベックスと一緒にやりたいと言っていました。北京は韓国から進出するから、香港はエイベックスがお願いします。北と南から進出して、共に中国を目指しましょうと。ソウルと東京はイコールパートナーで、アーティストも相互にデビューさせましょう、とスタートしたプロジェクトがBoAです。その先にアメリカ進出がありました。
中西:日本でも大成功しました。
「6000億円を超えたコンサートの市場規模を
さらに成長させたいんです。
中西健夫
コンサートプロモーターズ協会会長
依田:私の中ではこのプロジェクトが大きなエポックメイキングだったのですが、それから時を経て、今、日本が世界を目指すのならば、国の協力のもと、音楽業界が力を合わせてCEIPAを立ち上げ、MUSIC AWARDS JAPANから始めるのが一番いいやり方だと思っています。独自の進化を遂げてきた日本の音楽文化を、世界に伝えるためには大きなイベントが必要なのですよ。
中西:不思議なことに、僕らがMUSIC AWARDS JAPANの開催を目指して動き始めていると、真田広之さんが主演・プロデュースを務めたドラマシリーズ『SHOGUN 将軍』がアメリカで大ヒットして、ゴールデングローブ賞(4部門)やエミー賞(史上最多の18部門)を受賞するというニュースが飛び込んできました。
依田:そう、タイミングがいいですよ。日本の時代が来ています。
中西:しかも、台詞のほとんどが日本語の作品にもかかわらず。
依田:コロナ期の配信の進化で、字幕付きの映像を視聴することがアメリカの視聴者にも浸透してきたところだったので、『SHOGUN 将軍』も受け入れられやすかったという側面もあったと思います。だから本当にタイミングは大事なのですよ。
中西:依田さんは映画でも数多くのヒット作を手がけています。最近でも、もともとインディペンデントの作品だった『侍タイムスリッパー』が、日本アカデミー賞で最優秀作品賞を受賞して大きな話題になりました。
依田:持ち込まれる企画は数多くありますが、この作品の場合は、弊社側からの働きかけでした。監督が自主制作をして、作品に対する思い入れ、映画愛が非常に強かったことがすべての原動力になりました。時代劇の概念が覆る発想の面白さがあり、観客の皆さんが笑って泣いて、感動して、また映画館に足を運んでくださったわけです。200回以上観ましたというお客様もいらっしゃるそうですよ。
中西:200回以上! 依田さんが配給しようと決断する基準はどこにあるのでしょうか。
依田:まず作品を観て感じて、そして監督の映画に対する思いと、映画のヒットに向けてどれくらいの力を尽くしてくれるのかをうかがった上で判断して、でしたら私共も全面的に協力しましょうということになるわけですね。『侍タイムスリッパー』の配給は、上映が始まった時に1館、2館だったものを375館まで増やしました。
中西:音楽も同じだと思いますが、映画はすごくいい作品だったとしても、売れるか売れないかは分からないじゃないですか。それなのに上映館を1館から300を超える数に増やしたわけですから、これは音楽でいうミリオンヒットですよね。
依田:そうなります。日本の映画界では興行収入が10億円に届くことがヒットの目安になります。『侍タイムスリッパー』は、当初、営業部門から4億くらいを見込む声も出ていましたが、私は「これは絶対10億に届く作品だ」と思っていました。それで10億、10億と念じ続けて、本当に10億円を突破しました。
中西:10億の作品を見つけ出すのは本当に難しいとは思いますが、ハマったら最高ですよね。ヒットに向けて打った手段がどんどんうまくいった時のパワー、醍醐味といったら。
依田:最終的に大事なのは、その作品が持っている映画ならではの力、監督、キャストの皆さんの作品に対する思い入れ、そして、それをバックアップする私共の熱意ですよね。そして、もう一つ大事なのは、興行の世界ですから、映画館の方々に作品の良さが伝わるかでしょう。伝わったからこそ皆さんが1票を投じてくださり、結果的に日本アカデミー賞最優秀作品賞につながったということですよ。全部がうまく回りました。いつも、このようなことが起きるわけではなくて、何年かに1作、生まれるかどうかの夢の結晶です。
中西:そういうお話しを伺うと、夢を追いかけたくなりますよね。まれにしか起きない成功を体験したいじゃないですか。