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風営法「ダンス規制」が音楽文化に与える影響

ここ数年、風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)による「営業目的のダンスの規制」が強まり、各地でクラブの摘発も続いています。この規制はプロモーターの業務や音楽産業にどう影響するのでしょうか。

風営法とは?

風営法は、1948年に制定された「風俗営業等取締法」を元に、時代の変化にともない30回以上の改正を経て今に至ります。制定当時、この取締法はダンスホールやキャバレー、カフェなどでの犯罪(売春・賭博など)を防ぐ名目がありました。その後、1982年に女子中学生2名が、新宿のディスコで知り合った男性に殺傷された事件をきっかけに、風営法が大幅に改正されて取り締まりが厳格化。現在の風営法では、フロアで客を踊らせるクラブなどの営業には都道府県公安委員会の許可が必要のうえ、午前0~1時までしか営業ができません。
それでも警察はクラブの深夜営業はグレーゾーンと見なし、長年黙認してきました。

今起きていること

2010年末より、大阪や京都で10軒以上のクラブが無許可営業容疑で摘発。2011年以降は福岡や神奈川、東京でもクラブの摘発や立ち入り捜査が相次いでいます。
風営法のダンス規制は警察の「ダンスの解釈」に依りますが、その基準は極めて曖昧です。ダンス教室では「男女間の享楽的な雰囲気が過度に渡る可能性」があるとして男女のペアダンスを規制する一方、クラブなど飲食も含む営業形態では、あらゆるダンスが規制の対象とされています(バーやライブハウスの営業における「ダンス」には明確な規制がありませんが、その根拠もはっきりしていません)。
規制の対象となるダンスの解釈が曖昧な現状では、一方的な解釈による公演の規制や取り締まりも不可能ではありません。(例:プロモーターがクラブを借りてコンサートを開催した場合に「規制対象のダンスを客にさせている」と判断されるなど)
いまやクラブにとどまらず、サルサバーやダンス教室まで規制は広がっています。今後ライブハウスなどにその影響が及ぶ可能性もありますし、クラブの摘発が続いた大阪ではクラブの閉店が相次ぎ、地域経済にもマイナスの影響が出ています。

音楽文化とクラブ

クラブ発の文化という観点で言えば、近年の欧米や韓国のポップスのトレンドとして、シーンの盛り上げに大きく貢献しているEDM(Electronic Dance Music)のムーブメントはクラブから生まれたものです。これからも多くのクリエイターやDJ、音楽ジャンルがクラブカルチャーから登場するでしょう。
ダンスの自由とクラブカルチャーを守るため、風営法の規制対象から「ダンス」を削除するための「Let’s DANCE署名推進委員会」も立ち上がり、11万筆以上の署名を集めています。今後もさらなる議論の活発化と共に、音楽業界からのアクションが続いていくはずです。

参考文献:朝日新聞(2012年5月16日号、5月30日号、9月3日号、10月11日号、2013年1月7日号、1月16日号)/日本経済新聞(2011年7月28日号・夕刊、2012年10月1日号・夕刊)/Let’s DANCE署名推進委員会ホームページ http://www.letsdance.jp/

MORE STUDY

風営法の「ダンス規制」をさらに学びたい人は…

書籍名:踊ってはいけない国、日本 風営法問題と過剰規制される社会

出 版:河出書房新社


書籍名:なぜダンスは規制されるのか? 知らないとあぶない風営法のはなし[電子書籍版]

出 版:行政書士呉国際法務事務所



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