会報誌 ACPC naviライブ産業の動向と団体の活動をお伝えします。

正規のシステム、料金の幅

現在とられているコンサート業界側の対策には、会場での顔認証システムの導入などがあります。今後はシステムがより進化すると思いますし、個人情報保護法との兼ね合いに難しい面があるにせよ、テクノロジーによって転売チケットでの入場を防ぐ方法はさらに広がるでしょう。ただし、純粋にコンサート当日に都合が悪くなる方もいるわけですから、転売を一切禁止するのは法的にも無理があります。業界側が主導して正式な「定価転売」の仕組みを広げる必要があると思います。

もう一つ考えられる対策は、チケット料金の弾力化です。日本のコンサートは、アーティストの皆さんにしろ、コンサートの主催・運営に携わる方々にしろ、チケットの料金は可能な限り一律にして、どんな席でも差異なく平等に楽しんでもらいたいという気持ちもまだ根強いようです。その思いは大変素晴らしいと思いますが、やはり席による見え方の差は厳然と存在しますし、高い金額を払っても、できるだけ「良い席」を押さえたいという観客と、それほど席へのこだわりがなく、むしろたくさん行きたい観客の間では、コンサートに求めるものが違うのも事実です。歌舞伎では安価で一幕だけ観劇できる一幕見席があったり、映画館では割高だけれど広い座席で映画をゆっくり楽しめるボックスシートがあったり、ブロードウェイのミュージカルでも席によってチケットの金額が大幅に違うのは当たり前になっています。この幅によって「販売価格と実勢価格のずれ」が減るなら、転売対策の一つになるんじゃないでしょうか。

正規版のリセールの仕組みづくり、料金の弾力化などは、チケットの定額販売を守っていくための施策ですが、ここまでやっても悪質なチケットの買い占めと高額転売はなくなりはしないと思いますので、やはり法規制も視野に入れるべきでしょう。よく「古本屋さんでコミックスだって転売できるし、壺だって転売できるじゃないですか?」と疑問を投げかける方がいますが、チケットは通常の「中古品」とは異なります。実はあれは主催者との「入場契約」という債権であって、主催者が高額転売を禁ずることは法的には恐らく可能です。


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