同じコンサートでも、アニメソングからクラシックまで。コンサート以外であれば、ミュージカルやスポーツ興行、様々な複合型イベントまで。プロモーター各社の取り扱いジャンルが広がってきた現状と、新たなジャンルの「ライブ」を手がける理由を探ります。
会報誌 ACPC naviライブ産業の動向と団体の活動をお伝えします。
すべてのジャンルに「ライブ」あり
コンサートで培った運営ノウハウは、他ジャンルの「ライブ」にも活かせる
競技と興行の融合
ACPC会員社は、ロックやフォーク、ニューミュージックの草創期に設立されたコンサートプロモーターが多く、現在はJ-POPと総称されるこれらの音楽が、今なお各社の取り扱いジャンルの中心になっています。一方で歴史を重ねるごとに手がけるジャンルが広がっていることも確かで、コンサート以外のライブイベント、プロモーター以外の業務も加わってきています。近年ではコンサートプロモーターの業務をひと言で表現する際、「コンサート」ではなく「ライブ・エンタテインメント」という言葉が使われるようになった背景には、このような傾向があると思われます。では、各社が業務を広げている理由は、どこにあるのでしょうか?あるいは他ジャンルに進出する際のポイントは?ACPC会員社のなかでも、多角的な展開が定着しているキョードー東京、そしてジー・アイ・ピーの2社にお話を伺いました。
キョードー東京の取締役第1事業本部本部長・田山順一さんによると、同社の現状は—。
田山さん:「弊社の興行のジャンルは邦楽、洋楽のコンサート以外でもミュージカル、演劇、ダンス・バレエ、パフォーマンス、スポーツ……と多岐にわたり、それらをパフォーミングアーツとカテゴライズしています。具体例を挙げれば、スケートショー『ディズニー・オン・アイス』、2003年の日本初上演以来圧倒的な人気を誇る『ブラスト!』、東京ドームで行なわれたスノーボードの世界大会『X-TRAIL JAM』、ダーツの全国チャンピオンを決める『SUPER DARTS』などで、全体の約1/3を占めています」
例えばスポーツ大会の運営にコンサートプロモーターが参加する際は、どんな役割が求められるのでしょうか。
田山さん:「僕らが求められるのは競技を興行としてどう見せるかというアイディアだと思います。ただ勝敗を決めるだけでなく、魅せる要素を取り入れることです。今年の4月、赤坂BLITZで開催された『SUPER DARTS』の時もそうでしたが、一番のポイントは競技の専門家の方々と興行側の僕らのノウハウをどう融合させていくかということです。ダーツであれば、競技としては観客に背中を向けて投げるのが普通のようなのですが、それでは客席から見えにくいので、ダーツの軌道や競技者の真剣な表情が見えて、緊張感が伝わる角度の競技場の設置を提案してみました。これは観客が視角に入ることで競技者の集中力の妨げになるという理由で実現しませんでしたが、そこから先をどうすり合わせいくかが大切で、最終的にはビジョンを設置したり、選手の入場テーマ曲を考えて、少しでも競技の興奮が伝わるよう工夫しました。また次回も開催されるので、その時にはさらにパワーアップさせたいと思います」
文化をクロス、地元から発信
仙台のプロモーター、ジー・アイ・ピーは、地元文化へのこだりを軸に様々な文化を結びつけています。同社のコンサート部本部長(1月1日より)・菅真良さんによると—。
菅さん:「弊社は、コンサート事業の他、広告代理業や番組制作業も積極的に行なっています。また、86年から始まった、定禅寺通りと青葉通りの並木道をイルミネーションで飾る仙台の冬の風物詩、“Sendai光のページェント”も代表の佐藤(寿彦)の発案で始まったりと、社として地元への文化的貢献の意識が高いことも特徴です。僕自身もARABAKI ROCK FEST.を制作する際に東北を意識した企画を盛り込んだり、地元文化をキーワードに度々コンサートプロモーターとは別ジャンルの仕事にも関わっています。最近ですと、太宰治原作で、宮城県でロケが行なわれた映画『パンドラの匣』を地元で広く上映する運動を手がけました。宮城県全域で公開されるように各市町村で上映委員会を設置、映画館のない場所でも仮設の映画館をつくって上映する試みです。配給元の東京テアトル、そして映画興行のプロとして参加してくださったシネマ東北のご尽力もあり、結果、予想以上の反響がいただけて、東京と同じレベルの動員を記録しました」
地元を盛り上げたいという思いは、さらにジャンルと業態を越えていきました。
菅さん:「Zepp仙台では上映とコンサートを融合したイベントも開催しました。ZeppのPAを使った上映をすることによって、映像がより立体的に見え、新しい感覚で楽しんでいただけたと思います。出演はこの映画の音楽監督である菊地成孔さん。冨永昌敬監督と親しい相対性理論。このように文化をクロスさせることで、まだ誰も行なっていないイベントをつくりたいと思っています」
田山さんが語ったスポーツ。菅さんの映画。このように音楽を他のジャンルとリンクさせ、会社の業務も広げていくというやり方は、2010年も有効なのでしょうか。
田山さん:「僕にとってはどんなジャンルでも“興行”という意味では同じ。要するにチケットを買っていただいて、決められた日時、場所に足を運んでいただかないといけない仕事ですからね。そこにはチケットの価格や開演時間の設定、会場選びなど共通する法則がある。それが通用するのであれば、積極的に新たなジャンルにも挑戦していきたいです」
菅さん:「エリアの担当者としてツアーを請け負うことももちろん大事。ただし、仙台公演により高い注目を集めるためには、自分達の文化的な発信力を高めていかないといけないと思いますし、動員に結びつけるための多角的な環境づくりも必要。だから本来のコンサート業務と新しい試みは、“どちらか”ではなく“どちらも”やるべきだと思います」
コンサートで培ったノウハウは、他ジャンルにも活かすことができ、さらにはコラボによる相乗効果も生むようです。