会報誌 ACPC naviライブ産業の動向と団体の活動をお伝えします。

本当の意味での全国ツアー各地の観客と作る「地盤」

全国ツアーをやることは、洋楽の活性化に間違いなくつながるはずです

高橋辰雄

高橋:今は海外アーティストの全国ツアーが、なかなか組めなくなっています。ツアーを組む際には、主に各エリアのプロモーターに委託する形と、公演をパッケージで買い取ってもらう形がありますが、どちらも難しくなっている。エリアのプロモーターにとって、洋楽は邦楽に比べて動員が読めないそうです。

清水:クリエイティブマンが設立された90年代は、QUATTROやCITTAなどでクラブのツアーを回せたんです。その後、Zeppが各地にできてからは、それほどのビッグネームじゃなくても、札幌から福岡までツアーを組めるようになった。でも、この5〜6年は札幌、福岡、広島あたりでライブをできる新人アーティストが、ほとんどいなくなったのが現実です。東京だけで帰国してしまうアーティストもいますし、大阪だけは、なんとかライブを行っているような状況になってしまいました。

高橋:うちはボブ・ディラン以外、お世話になる機会は多くありませんが、Zeppの存在は大きいと思います。Zeppがあることで、ライブハウス・ツアーを洋楽でも組めるわけですから。全国ツアーをやることは、洋楽の活性化に間違いなくつながるはずです。

清水:確かにそうですね。あのくらいの規模で、設備が整ったハコは貴重ですよ。仙台はZeppがなくなってから、行く機会が極端に減ってしまいました。最近は、近隣のアジアのマーケットがどんどん大きくなっているので、例えば名古屋や仙台に行くよりも、韓国とシンガポールに行ったほうがいいと判断するアーティストも出てきています。

高橋:アジアを回ったほうが効率はいいでしょうね。

清水:例えば、ワン・ダイレクションだったら、日本でドーム・ツアーもできると思うんです。でも、ツアーをやるとしたら、彼らは日本に2週間以上いなきゃいけない。それだけのスケジュールを日本用に押さえてくれるかといえば、現状では難しい面があります。出演したコマーシャルが話題になり、アーティスト側も内容を大変気に入っていて、かなり日本に対する意識が高まってきているので、今後いい流れを作っていきたいと思っています。

高橋:将来を見越して絶対に押さえておくべきアーティストもいるし、単発のコンサートでも興行的に成功させなくてはいけない場合もあるんですけれど、最終的には日本という場でアーティストができるだけ長くコンサートを続けられるように、きちんと育ててあげることが大事なんですよ。
「育てる」という言葉の意味は、そのアーティストのマーケットを作ってあげることだと思います。例えばエリック・クラプトンは、アルバムが出ても出なくても、何年かおきに必ず日本でコンサートをやることで、自然にマーケットができたわけです。これは非常に稀なケースですが、定期的に来日することで、お客さんとの信頼関係を構築して、動員の安定につながったんだと思います。

清水:そういった信頼関係の地盤のようなものは大事ですね。そんなにキャリアが長いアーティストでなくても、アヴリル・ラヴィーンなどは今でも福岡や広島で、4000~5000人の規模でライブができるんです。それはこれまで何度も来日して、日本のお客さんと一緒に作ってきた地盤があるからです。

高橋:やっぱり全国各地のエリアで、それができるのが理想なんですよ。

清水:そのためにも、よりマスに訴える可能性があって、洋楽の入口になるようなアーティストを育てていって、全国ツアーもしっかりできるようにしたいですね。


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