会報誌 ACPC naviライブ産業の動向と団体の活動をお伝えします。

鼎談「ACPC寄附講座のバックステージ」

前頁でレポートしたように、ACPCが東京工科大学に提供した2007年度の寄附講座は大きな成果を残しました。講師として参加してくださった皆さんのご尽力のもと、初年度を無事、好評で終えることができた背景には、どんなポイントがあったのでしょうか。寄附講座を担当した反畑誠一理事、荒木伸泰理事、そして東京工科大学からは佐々木和郎教授に、改めて講座が行なわれた教室にお集まりいただき、語り合っていただきました。

講座開設のきっかけ

佐々木和郎

(東京工科大学メディア学部長)

反畑:もともと東京工科大学とACPCの間には交流があったと聞いています。同じ学校法人片柳学園のグループ校である、日本工学院専門学校の「ミュージックカレッジ」コースに講師を派遣した実績もあり、今回の寄附講座もその延長線上で実現したようですね(前頁参照)。それと、他の音楽業界団体でも大学での寄附講座を開設した例もあり、私も講師を務めたことがありますが、ACPCも設立20周年を迎えて、歴史ある団体と同じく人材育成支援や社会貢献ができるまで成長したということも大きいと思います。

佐々木:「ミュージックカレッジ」コースは、就職に向けた実践的な内容で、専門学校の学生には大変好評でした。正直に申し上げれば、今回は大学での講座になりますので、どれだけの学生が興味を持つか、どのような反応があるか、未知数の部分もありました。メディア学部には音楽講座もあり、自分達でコンサート運営をする学生もいますが、「ライブ・エンタテインメント」という枠組みは全く新しいものでもありますし。しかし、実際には非常にたくさんの学生が履修登録し、結果として人気No.1の講座になりました。

荒木:僕には「大学に提供する講座」だからこそ、楽しみにしていた面もあったんです。自分も大学時代に現在の会社を始めているので、なんというか、大学に対して懐かしさを感じるんですよね。寄附講座の担当として、今の学生達やキャンパスはどんな雰囲気なのか、好奇心を持って取り組むことができました。

反畑:「ライブ・エンタテインメント論」という講座名にしたのは、アメリカの音楽産業の現状を鑑みて、日本に波及している実態、またこれから波及して来るであろう予測を意識したからなのです。

佐々木:「ライブ・エンタテインメント」という発想は、我々にとっては斬新でした。本校にもサウンドアートやデジタルサウンドという授業はありますが、大きな転換点を迎えている音楽産業に、13回の講座であらゆる角度から切り込んだ内容は、学生にとっても新鮮だったと思いますね。

反畑:13回の講義は、13章の新書本を編集するような発想で構成したのです。その中で柱になったのは「クリエイティブ」というテーマです。クリエイティブとは、ものを創出するだけではなく、発想力や企画力、マネージメント力までを含めた内容ですから、様々なジャンルの講師の方々にご登場願うことが必要になってくるのです。それと、やはり大学での講義ということで、アカデミックな体系づけも意識しましたね。さらにもう一つの目的は、人材育成。今回の講座をきっかけにして、クリエイティブな若者が社会に出ていくことになれば理想的だと思いますね。

人間性が投影された「リアル」

反町誠一

(ACPC理事/音楽評論家/立命館大学客員教授)

荒木:あらかじめお願いしていたわけではなかったのですが、講師の方々は、現在の仕事に就いたきっかけ、そしてその仕事を続けている理由など、自分の生き様をリアルに語ってくださいました。「大学時代は熱中できるものを見つけるチャンス」「振り返ると学生時代にやったことが現在の財産」などといったように、講義の中に「大学」「学生」など身近なキーワードが多く含まれているため、学生達も講師に対して親近感を感じて、引き込まれていくんですよね。自分達も何かを始めればチャンスにつながるという希望、そして夢を持つというエネルギーを感じてもらえたと思います。

反畑:スピーカーの方の人間性が投影されていましたね。何よりも人間が一番面白いですから。講座を提供する側の課題としては、学習の成果が上がることですから、受講した学生が自身のテーマを発見できればいいと思います。いわゆる「自分探し」ですね。

荒木:講師の皆さんは、今回も本当に熱心に精魂込めて講義をしてくださいました。驚くほど、皆さんトークが実にうまかったですし(笑)。大学で講義をすることは、ほとんどの方は初体験だったようですが、皆さん「来て良かった」といってくださったのが印象に残っています。

佐々木:寄附講座の履修登録530人というのは、他の講座に比べて圧倒的に多い人数です。500人以上が出席する授業となると、教える側も教わる側も大変で通常、授業の満足度調査でも低い数字が出るものですが、評価は非常に高かったですね。学生の感想で多かったのは、「現場の第一線で活躍している方にお会いできてよかった」ということでした。就職活動を前にして悩みの多い時期に、業界のトップクラスの方のお話を伺えたことは、とてもいい経験になったようです。

ACPC流「理論から実践まで」

荒木伸泰

(ACPC理事/キャピタルヴィレッジ代表取締役)

反畑:今回の講座が、松任谷由実さんのコンサート「SURF&SNOW in Naeba」に学生達が協力するところまで発展したのは、素晴らしい成果でしたね。

荒木:コンサートの期間限定でWebにアップされる「YUMING NET MAGAZINE in NAEBA 2008」というコンテンツがあるんですが、講師としてご登場いただいた松任谷正隆さんから学生達に協力要請があったんです。「講義を受けた学生達はみんな色々と勉強していると思う。彼らとコラボレーションをしたい」と。正隆さんはミーティングでも「君達と一緒にやりたいんだ。アイディアを出して一緒につくっていこう」とおっしゃっていて、学生達は見事にその期待に応えたと思います。

反畑:理論や資料に裏付けされたアカデミズムに、実践的なワークショップも加わった理想的なケースですよ。ACPCならではの良さが出せたのではないでしょうか。

佐々木:学生を引率する立場からすると、ご迷惑をおかけしないか(笑)、心配も大きかったのですが、松任谷正隆さんが本当に優しく学生に接してくださって、押したり引いたりしながら見事にご指導くださいました。荒木さんも学生時代から「SURF&SNOW」に関わられていたそうですが、荒木さんが実行されたことを今の学生に同じように引き継いでくださったことにも感謝しています。

荒木:学生達も本当にがんばっていましたよね。11人が苗場で約2週間の缶詰状態になりながら、撮影や編集などあらゆる場面で関わってくれました。多数のメディアで報道されたゲレンデでのサプライズ・ライブも、実は学生からの提案で実現したんですが、真冬のスキー場、しかも屋外での生演奏なんていう発想はプロにはありません。でも、正隆さんも由実さんも「それは面白いね」と乗り気になって、実際にやってみたら大きな話題になったんです。学生が入ったことによって、新たな波状効果を生んで、現場もいい雰囲気になったんじゃないでしょうか。若い人と一緒に仕事をすると、アーティストもスタッフもリフレッシュできるんだと思います。

反畑:教室での座学だけでなく、クリエイティブな現場を実習できたわけですから、まさに「ライブ・エンタテインメント」を体感できたということでしょう。今回の成功例が、来年度に向けて口コミで学生に伝わっていくといいですね。アーティストと一緒に仕事ができたということは、本当に貴重な体験でしょうから。一方で、4回のレポート提出をきちんと義務化するなど、次回も教育の場としての緊張感を維持しつつ進めていくことも大事にしていきたいですね。

佐々木:今回は全講座で徹底できなかったのですが、学生から「先生に質問する機会をもっと増やしてほしい」という要望が多かったので、次回に活かしていきたいと思います。2008年度の後期の9〜1月の同じ枠で実施が決定しておりますので、次回もどうぞよろしくお願いいたします。


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