会報誌 ACPC naviライブ産業の動向と団体の活動をお伝えします。

受賞の理由は、実用化を応援してくれる意味なんだと思います

「LDI 2011」で初出品者最優秀賞

ライブの演出とセットデザインで知られる市川訓由さんが、太陽光発電でライブに必要な電力の一部をまかなうシステム「Rising sun」を開発。 同システムは、昼間のうちにソーラーパネルで太陽光エネルギーを集めてバッテリーに蓄電、夜間のライブ本番の照明などに利用するもの。昨年10月末にアメリカのフロリダ州で開催されたエンタテインメント技術や製品、ソフトの見本市「LDI(Lighting Dimensions International)2011」で発表され、見事に初出品者の最優秀賞を受賞しました。市川さんに開発に至る思い、演出家/デザイナーの視点からのライブ・エンタテインメントへのご意見を伺いました。

「カッコいい目線」の発想

演出家であり、デザイナーでもある市川さんが、今回のようなシステムを発案したきっかけは?

「太陽エネルギーを使って、アーティストが歌い、演奏したらカッコいいだろうな」という単純な発想からなんです。地球の環境汚染とか、温暖化などが問題になっている中、すべてのエネルギーの源である太陽の力を利用して、ステージができたらいいじゃないかと。僕は環境問題の専門家でも、技術者でもありませんので、高尚な大義名分があるわけではなく、演出家としての「カッコいい目線」から生まれたアイディアです。実現に向けて、エンジニアの方や仲間うちで相談し始めたのが2年以上前なのですが、実は技術やコストの問題で一度挫折しているんです。でも、東日本大震災を経験したことで背中を押されて、もう一度スタッフを集め、再度挑戦を始めました。
もし、僕が大きな企業の人間で、ビジネスのためにやっていたら、持続できなかったでしょうね。お客さんに演出という形で夢を提供する仕事をしていて、フィクションの中で生きているようなものだから、計算は度外視して挑戦できたのだと思います。このシステムは僕にとって、あくまで演出の一環だと思っています。

システムが完成していても、実用化をするなら、まだ超えなくてはいけないハードルがあるのでしょうか。

本当の意味で実用化するには、正直いってまだ穴だらけなんです。コストもかかるし、システムも完璧ではありません。そんなアイディアが、なぜLDIから賞をいただけたのかというと、「これからも実用化に向けて、がんばりなさい」と応援してくれる意味が強かったのだと思います。
一番の問題は、コストと物量ですね。このシステムを設置する会場の規模が大きければ、当然使用する電力も増えていきますが、そうなるとバッテリーなども相当大きなものが必要になって、コストもアップしてしまう。設備をコンパクトにするのが最大の課題です。ただし、これまでのデモンストレーションでは、全くトラブったことはありません。LDIでも野外の駐車場にソーラーパネルを置いて稼働させてみましたし、実際のライブでも実験は何度か行なっています。また、特許を取れたことで、システムの中身をオープンにすることができるようになりましたから、今後の技術の進歩によっては、さらに改善できる可能性は広がってきたと思います。

受賞後、海外を含めて、何か反応は届きましたか。

アメリカの某所での野外コンサートに参加しないかという話があったり、多くの問い合せをいただいています。届いた反応のうち多かったのは、バッテリーを売ってくれないかというオーダーでしたね。ソーラーパネルは、どこにでもあるものですが、鉛を使ったバッテリーは独自のものですから、注目されるのでしょう。LDIでは「僕らはバッテリーを売りにきたわけではなく、自分達が作ったシステムについて、皆さんの意見をお聞きしたいんです」ということを、何度も説明しました(笑)。

演出の基本は「曲順とMC」

市川さんはこれまで錚々たる顔ぶれのアーティストを手掛けてきていますが、演出上で最も大事にしているポイントは、どんなことでしょうか。

確かに最近はドームツアーなど大規模な会場を担当することが多くなり、会場の隅々まで揺さぶることを狙って、派手な演出が多くなってきています。それはとてもやりがいがある仕事ですが、アコースティック・ギター1本でお客さんを感動させるような原点も大切にしたいですね。曲順とMCが演出の基本。まずそれが面白くなくてはいけないと思います。

ACPCでは近年、舞台上の安全が課題になっていますが、演出家の立場からのご意見をお聞かせください。

僕の仕事はセットや演出のプランを考える側なので、ある意味では僕が新しいことをやろうとすれば、会場設営のスタッフの危険が増すといえるかも知れません。だからこそ、安全性には人一倍、神経質になっているつもりです。大道具を作る段階から、業者さんとは事故が起きやすい部分を徹底的に話し合っていますし、現場でも僕のチームのチーフクラスがナーバスなくらいチェックしています。もちろん、大道具さんだったり、照明さんだったり、重い機材を会場に吊る機会がある会社の方々も、安全確認は最優先で考えていらっしゃると思います。
大事なのは緊張感ですよね。初日から中日、千秋楽と進んでいくと、どうしても人間は気が緩んでくるじゃないですか。慣れてくると少しずつミスが出てくる。事故ではなくても、きっかけのミスとか、ちょっとしたことが起きてきます。僕はその昔、先輩から「人命に勝る芸術なし」という言葉を教えていただきましたが、人命より優先される芸術はないので、今後も気をつけていきたいと思います。

常日頃一緒に仕事をされているコンサート・プロモーターの方々に、何かメッセージがあればお願いします。

僕が考えるセットデザインや演出は、コンサート・プロモーターの皆さんが、消防法を確認したり、会場側と交渉してくださった上、初めて形になっているんだということは重々承知していますので、僕からは、もう、感謝の言葉しかありませんね。

市川訓由プロフィール

いちかわ くによし
ネクストワン クリエイト代表取締役
演出家、セットデザイナーとしてBOOWY、B'z、EXILEなど様々なアーティストを手掛ける。2005年、舞台美術の国際大会「WORLD STAGE DESIGN」コンサート部門で日本人として初めてノミネート。海外業界誌『LIVE DESIGN』主催「EXCELENCE AWARDS 2010」コンサート部門では、08年のEXILEのドームツアーで使用したセットがファイナリストに選出。


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