会報誌 ACPC naviライブ産業の動向と団体の活動をお伝えします。

ACPC人材育成研修会 ダイジェスト2

心をつかむビジネス・コミュニケーション

宮竹直子

ジェーシービー・サービス代表取締役社長

お客様との距離を縮める3つの「きく」

お客様からのあらゆるお問い合わせに答えるJCBのコミュニケーションセンター部長を経て、現在はJCBサービスの代表取締役を務める宮竹直子さんに、ビジネスにおけるコミュニケーションについてお話を伺った。

家族や同僚との一般的なコミュニケーションとビジネス・コミュニケーションの大きな違いは「戦略的なコミュニケーションであるかどうか」ということ。ビジネス・コミュニケーションには「お客様と会話を進める中で、最終的にどこに着地したいのか」という「戦略」があり、戦略を実行するための「システム」があり、そして戦略とシステムを理解して使いこなす「人」が存在する。その「戦略」「システム」「人」という3つの要素を理解することが重要だという。

さらには「相手の目線に立って共感的に話を受け止める」ことが大切。「そのためには“聞く”“聴く”“訊く”の3つの“きく”を実行しましょう。話を “聞いて”、さらに熱心に傾聴する“聴く”姿勢があるからこそ、質問して“訊く”ことができます。同じ目線に立って話をしてくれる人とは、電話での数分間のコミュニケーションでも“この人と話をしてよかった”という気持ちになってもらえるものです」。

電話の応対では、話した内容のメモを取り、わかったこと・わからないことを確認し、さらに深意を探るための聴き方・訊き方として「閉じた質問」と「開かれた質問」を取り入れることを紹介。「ラーメンは好き?」など、相手がイエスかノーで答えられるものが「閉じた質問」、「どんな食べ物が好き?」と相手が自由に答えられるものが「開かれた質問」。「閉じた質問は答えから得られる情報は少ないですが、手短に話を終わらせる利点があり、開かれた質問は話は長引きますが多くの情報を引き出せるので、苦情やクレームの応対では、開かれた質問でお客様に長く話をしてもらいながら気持ちを引き出すといいでしょう」と具体的な方法を教えていただいた。

エンタテインメント産業の現状

笹井 裕子

ぴあ総合研究所 取締役 主任研究員

01年以降「ほぼ横ばい」が続くライブ市場

エンタテインメント分野に特化した研究を行ない、『ぴあライブ・エンタテインメント白書』を毎年発行しているぴあ総合研究所の笹井裕子さんに、ライブ・エンタテインメント産業の現状についてのご報告をいただいた。

ライブ・エンタテインメント市場は、2001年以降ほぼ横ばいで推移している。コンサート、演劇等のステージ、映画館での映画鑑賞、プロスポーツ観戦、遊園地・テーマパークの5ジャンルに分類すると、注目すべきはコンサート、ステージ、スポーツ観戦の入場料収入の伸びが著しいことだ。03年を100として指数化すると、コンサートは08年が119で、5年間でほぼ1.2倍の伸びを示している。特にレジャーイベントとして音楽フェスティバルが定着し、この 10年間にフェス市場が飛躍的な拡大を遂げたことは、アーティストの人気に左右されがちなライブ・エンタテインメント市場において、持続的な成長を促す大きな要因となった。
「音楽CD市場は縮小傾向が続いているのに対して、ライブ・エンタテインメントの伸びは堅調に推移しています。この現象の根底には、世の中がITの発達により合理化・効率化していく中、リアルな感動や臨場感を求める人々の心の動きがあり、それがマーケットを支えていると考えられます。日本経済全体が不況と言われる中で、横ばいとはいえ堅調に推移しているのは、ライブ・エンタテインメントを求める消費者ニーズが確かにあると考えられます」と笹井さん。

今後の傾向として、景気の動向にかかわらず横ばい状態は続くと予想されるが、費用に見合う満足度の要求は高くなり、選択眼はより厳しくなるものと考えられる。良いコンテンツ作りを心がけ、ニーズに合致した付加価値をつけて、この不況を乗り越えることが重要なポイント。「産業としてさらに伸ばして盛り上げていくためにも、知恵を出し合って協力していきたいと思います」との発言で締めくくられた。

レコード会社とコンサート・プロモーター

斉藤 正明(写真左)

ビクターエンターテインメント代表取締役社長

「音楽の質の低下」と「ボーダレスの時代」

昨年の12月にビクターエンタテインメントの代表取締役社長に就任した斉藤正明さんに、レコード会社とコンサート・プロモーターとの関係についてご意見を伺った。

4年前まで務めた東芝EMI(当時)代表取締役会長兼CEO以来、再びレコード会社の代表を引き受けた動機を尋ねると、「僕は音楽が好きなのはもちろんですが、音楽ビジネスが好きなんだと強く思いました。音楽ビジネスで自分の成果を上げたいという欲求が高まったからですね」という斉藤さん。4年間のブランクを経て感じたことは、「音楽の質の低下」だという厳しい意見が出た。「プロとアマチュアの線引きが曖昧になって、プロの垣根が低くなったように感じます。自分の首を絞めるような意見ですが、コンサート・プロモーターの方には、生半可なアーティストには協力しないでいただきたい。アマチュアのミュージシャンが数多くいて裾野が広がるのは歓迎しますが、プロとして活躍するならレベルを上げたところで競争しないと、日本の音楽はどんどん使い捨てになってしまいます。僕はリアリティのある楽曲を紡ぎ出せて、2、3枚目のアルバムもヒットするようなアーティストを育てる方針を貫いてきましたが、ビクターでもその思想は捨てずに、理想を追求していこうと思っています」。

レコード会社がプロモーターを始め、プロモーターがマネージメントを、マネージメントがレーベルを作る現状については、
「ボーダレスになりましたね。それは渾然一体としたチームでやろうという時代の流れではないでしょうか。我々はプロモーターの方の悩みに対してどう貢献できるかを考え、プロモーターの方はいいライブを作り上げることにがんばっていただく。そして、対話を重ねながらお互いの強みを出し合って、レベルを上げるように努力していきましょう。大切なのは、いいライブを提供してお客様に喜んでもらうことですから」という言葉で締めくくられた。

舞台安全について

清水 卓治

NPO法人 日本舞台技術安全協会理事長/シミズオクト代表取締役会長

現場に内在する危険、急がれる安全対策

コンサートや演劇など、舞台上の演出空間における安全についての調査・研究、安全管理・保全・強化を目的に2000年に発足したNPO法人・日本舞台技術安全協会(JASST)理事長の清水卓治さんに、JASST設立に至る経緯や舞台の安全対策についてのお話を伺った。

舞台設備がエレクトロニクスの進展とともに高度化することで、より危険が高まり、華やかなステージの裏側では、様々なリスクを背負いながら現場作業が行なわれている。同じ現場内でも多業種が関わり、各社で安全対策は立てていても、全体で対策を練ることは行なわれていないという。
「業界全体での安全対策の必要性を痛切に感じたきっかけは、1999年にお台場で行なわれたコンサートでした。でき上がった舞台を主催者側に引き渡した夜中、強風が吹き荒れ、舞台が壊れたのです。各社まちまちの安全対策を行なっていたことも原因の一つです。また、このような事故を想定した契約書も存在していなかったので、各社で話し合って安全対策を行なうJASSTをスタートさせることになりました」。

JASST設立後は、事故が起きた場合にその都度対策を講じたり、研修会やセミナーを開催している。また、安全に関する資格や免許取得の補助も行ない、低圧電気取扱資格の技術者などを数多く輩出している。さらには、海外の舞台安全団体であるESTA(アメリカ)やWorld ETF(ヨーロッパ)にも加盟して、海外からの情報入手や技術交換も行なっている。
「事故はあってはいけないものですが、あり得るものだと予測して、予防対策を尽くすことが重要だと考えております。今後は舞台の施工から最終的な撤去作業まで、全体を監督する統一安全管理者を置くことを目指し、現在その基準を作成しているところです。ACPCの皆さんに安全への認識を深めていただくためにも、今後も協議の場を用意していきたいと思います」と今後の対策と要望も語っていただいた。


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