会報誌 ACPC naviライブ産業の動向と団体の活動をお伝えします。

地域の誇り、芸能の役割

中西:ACPCは全国組織で、各地域にコンサートプロモーターの仲間達がいます。地域社会にどう根づいていくのかは我々にとって大きなテーマですが、太宰府天満宮と地域社会の関係性についてお話を伺わせてください。

西高辻󠄀信宏
PROFILE にしたかつじ・のぶひろ
1980年、福岡県太宰府市生まれ。東京大学文学部歴史文化学科(美術史学)卒業。國學院大學大学院文学部神道学科で神職資格並びに修士号取得。2005年より太宰府天満宮奉職。2012年、太宰府天満宮宝物殿館長、同文化研究所所長就任。2019年、太宰府天満宮宮司を拝命。

西高辻󠄀:太宰府天満宮はこの地域に根づき続け、1120年を超えて菅原道真公をお祀りし、祈りを捧げる神事を行っています。神事には神職が司るものもあれば、地域の方にお手伝いをいただき、ご参加いただくものもあります。そういった日常の中で、非常に深い関係性を築かせていただいていますが、何より大切なのは地域の皆さんに神社に対する誇りを持っていただき、地域に対して思いを強く持っていただくことです。そして我々もそのお気持ちをとても大事にしています。現在は全国、そして海外からも含めて年間1千万人の方にお参りいただいているのですが、その根幹にあるのは地域の方とのつながりですし、それがあるからこそいらっしゃった方にも喜んで、元気になって帰っていただけるのだと思っています。

中西:一説によるとお祭りは日本で約30万あると言われているそうです。大変な数だと思いますが、一方でお祭りをはじめとする伝統行事の担い手が少なくなっているという現実もありますよね。

西高辻󠄀:昔は自分の住まいを移すことが今ほど盛んではなく、その地域で一生暮らす方も多かったので、地元の方々に支えられながらお祭りが残ってきたのだと思います。またお祭りなど伝統行事と地域をつなぐために、芸能も重要な役割を果たしてきたのではないでしょうか。お祭りは神事だけで終わるのではなくて、その後に直会(なおらい)といってお酒を皆で一緒にいただく場があり、芸能と結びつくことがとても多かったのです。地元ならではの芸能が神社に奉納されることもあります。太宰府天満宮でも稚児舞という子どもの舞いが奉納されたり、竹を束ねた「ささら」というものを鳴らして音を奏でる、原初の音楽と呼べるようなものが今も残り、捧げられたりしています。地域社会と神社、そして芸能の間には不可分な関係が築かれてきたのだと思います。

伝統と新しさの両立

中西:九州の歴史は知れば知るほど興味深いですよね。対馬から長崎、福岡は歴史的に日本の海外への窓口をずっと担ってきたわけですし、現在もインバウンドの観光客が多いエリアです。太宰府天満宮を訪れる海外の方は、何を目的に足を運ぶのでしょうか。

西高辻󠄀:太宰府天満宮にお参りされる方のうち、海外の方は2割から3割くらいではないかと思います。日本に来ても都市部だと日本らしさを感じることがなかなかできませんので、歴史と文化を感じるために訪れてくださるのでしょう。日本の神道、自然との関わりも感じたいと。

中西:日本の伝統文化だけではなく、斬新な仮殿のデザインやアートプログラムを見ると、海外の方はその新しさに驚くのではないでしょうか。

西高辻󠄀:太宰府天満宮の核となるのは祈りの部分ですが、そこをしっかりと守りながら、時代に合わせた形を模索する必要があると思います。とにかく、まず興味を持っていただき、触れていただかないと何も始まりません。あまりにも現代と乖離しすぎていると、今を生きる方々に伝わりません。もちろん本来、当たり前のようにあった古典、伝統を現代の生活の中にきちんと残す努力も必要です。

中西:僕は落語でそれを感じるんです。例えば立川志の輔さんの現代落語を聴いて感動した人が古典も聴く。両方聴くことによって、さらに世界が広がるわけです。現代と古典を両立させることは本当に大事ですよね。

西高辻󠄀:これは海外の方ということではありませんが、ライブのためにいらっしゃって、前後の時間で足を運んでくださる場合も多いと思います。コンサートグッズを持った方をお見かけすることがありますから。私達も福岡ドームやマリンメッセ福岡でのライブの開催予定を把握しておくようにしています。

中西:僕が太宰府天満宮に初めて訪れたのは20年くらい前ですが、久保田利伸さんのライブの時に。一緒に足を運んだんです。宮司から今の日本のライブ、コンサートの環境はどのように見えていますでしょうか。

西高辻󠄀:昔ほどライブに気楽に行けなくなったなとは感じています。人気のアーティストだとチケットを取るための倍率も高いですし、まずファンクラブに入っておかないといけないですよね。気軽にリアルな音楽に触れる機会が少なくなってきているのかなと。地方にいると特にそれを実感します。

中西:本当にそうですよね。色々な意味で電子チケットの普及は必要ではあるのですが、誰かにチケットをプレゼントしたり、当日に「一緒に行こう」と誘ったりはできなくなりました。コンサートをプロモートする我々自身が進めてきたこととはいえ、自分で自分の首を絞めているんじゃないかなという老婆心を拭いきれないんです。

西高辻󠄀:大規模なコンサートはチケットが取れない一方で、福岡ではジャズのライブハウスがほとんどなくなってしまって……私はジャズも好きなので残念です。東京だと小規模なライブハウスも残っていると思いますが……。

中西:ジャズは大事だと思うんですよ。飲食と結びつきやすいですし、ライブの規模は小さくても文化的な広がりがあると思うんです。

西高辻󠄀:音楽に付随して様々な文化が結びつく可能性は大事にしていただきたいですね。


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