会報誌 ACPC naviライブ産業の動向と団体の活動をお伝えします。

東京工科大×「SURF & SNOW」、今年はより濃密なコラボに

松任谷正隆さんのインタビューでも語られているように、「SURF & SNOW IN NAEBA」における東京工科大学とのコラボレーションは、学生達のフレッシュな発想とマンパワーによって「ライブをより多面的に展開し、コンテンツ化していく方法とは?」という命題をクリアする「実験」でした。では、実際に学生達が現場で担っていた役割とは、どんなものだったのでしょうか。

インターネット・マガジン「Y MODE」の松任谷由実さんが登場するコンテンツも学生達が制作。連日のハードな作業を乗り切りました(資料・写真提供:東京工科大学・メディア学部)

ライブの魅力を活かしたコンテンツ制作

ACPCによる東京工科大学寄附講座をきっかけとして生まれた、松任谷正隆さんと学生達によるコラボレーション。今年も、2月5日より計8公演行なわれた松任谷由実さんの苗場コンサート「SURF & SNOW IN NAEBA」に合わせてオープンするインターネット・マガジン「Y MODE」のコンテンツ制作に工科大の学生が参加しました。「Y MODE」への参加は前年同様ですが、今回はコンテンツがさらに豊富になったところに、学生達の「進化」が感じられました。

まず、新たな試みとして行なわれたのがトーク・ショウ「苗場ステーション」。これは学生が発案しただけでなく、現地に設置されたトーク・ブースの設営や機材のセッティング、司会、「Y MODE」での生放送に至るまで、学生が主導して番組作りが進んでいきました。ゲストには松任谷由実さんのバンドの皆さんに加え、スペシャル・ゲストとして正隆さんも登場、連日多数のお客様が詰めかけました。

ゲレンデでのライブにはご覧の通り多数の観客が集まりました

また昨年、学生の発案から実現したフリー・ライブ(2月13日「バレンタイン・ライブ」)が今回も行なわれました。昨年との違いは、まさにスキー場らしい場所、ゲレンデに会場を移したこと。通常であれば、天候や体感温度などを考慮して、なかなか実行に踏み切るのは難しいと思われますが、学生達の「現実をワンステップ越えたアイディア」で実現に至ったことは特筆に値するでしょう。さらに学生達はカメラ8台を用意してフリー・ライブを撮影、その映像素材を編集した上で「Y MODE」から配信しました。
 他にもブログやフォト・レポート、松任谷由実さんへの質問コーナーなど、正隆さんが「彼らはコンテンツメーカーだった」と評した通り、様々なコンテンツの制作に学生が携わりました。また、由実さんのニュー・アルバムから3曲の音源を提供していただき、東京工科大学メディア学部と多摩美術大学美術学部の学生がミュージック・ビデオを競作、その中からアルバムのプロモーションに使用される作品が選ばれるなど、苗場以降もコラボは続きました。
 準備期間も含めると2か月近くを掛けたこのプロジェクトは、学生にとって大きな刺激であり、寄附講座から生まれた産学連携の新しい試みといえるでしょう。

「ライブ・エンタテインメントの現在」が多角的に織り込まれた講義ラインアップ

学内最大の教室(片柳研究所KCB101大ホール) が今年度も満員に

2008年9月から2009年1月まで、全13回にわたって行なわれた東京工科大学寄附講座「メディア特別講義Ⅱライブ・エンタテインメント論」は前年同様、現在の音楽業界における「最高レベルの選抜メンバー」といえる講師陣が揃いました。コンサート・プロモーターに限らず、レコード会社やマネージメント、コンサート・ホールや行政など、様々な立場から多角的にライブ・エンタテインメントを分析した講義(下のカリキュラム一覧を参照のこと)には毎回、学外からも聴講生が訪れる程の好評をいただきました。講師陣は音楽業界の最前線に立ち続けている方ばかりですから、講義の内容にライブ・エンタテインメントの今日的な問題—市場のグローバル化、幅広いメディアとの融合、ホール・コンサートと野外フェスティバルの共存—などが織り込まれていた点に大きな特長があったといえるでしょう。社会貢献と人材育成をテーマにした寄附講座は、佐々木和郎メディア学部教授をはじめ大学関係者の皆様のご協力のもと、今年度も無事その役割を果たせたことをここにご報告いたします。

第1回(09/25):社団法人全国コンサートツアー事業者協会組織概要

講師 : 山崎芳人(ACPC会長/キョードー東京代表取締役社長)

ACPCの活動内容や目的、日本のコンサート・ビジネスの概況を解説。

同:産・学が新たに導き出せるもの

講師 : 反畑誠一(ACPC理事/音楽評論家/立命館大学客員教授)

この後の講義のイントロダクションとして、ライブ・エンタテインメント産業の全体像の説明と各講師の紹介。本講座の目的が「体系的な思考の構築にある」と説明。

第2回(10/07):誰にでも分かる音の楽しみ方 音響工学入門

講師 : 伊藤八十八(エイティエイト代表取締役/プロデューサー)

長きにわたる音楽制作の体験をもとに、興味深いエピソードを交えて音楽メディアの特性と楽しみ方を論じた。また、新技術の高音質CDの試聴も実演。

第3回(10/21):デジタル時代の音楽とユーザーの関係

講師 : 平山雄一(音楽評論家)

「今ユーザーはどう音楽を楽しんでいるか」をテーマに、音質と利便性という観点から音楽の楽しみ方を解説。その手段としてライブがより重要になっていくことにも言及。

第4回(10/28):赤坂Sacas 〜赤坂を変える〜

講師 :來住尚彦(東京放送ファシリティ事業センター 赤坂Sacas推進部 部長)

エリア開発としての赤坂Sacasの立ち上げと成功にまつわるエピソードや、今後の展望などを通して、クリエイティブな行為の楽しみそのものを論じた。

第5回(11/04):ブラジル音楽に魅せられて 〜音楽の創造〜

講師 : 宮沢和史(ミュージシャン)/中西健夫(ACPC副会長/ディスクガレージ代表取締役)

ブラジル音楽の魅力に留まらず、ブラジルという国そのものの魅力や可能性、日系移民の歴史などにも触れ、日本とブラジルのより良い関係を模索。

第6回(11/11):ホール事業とエンタテインメント

講師 : 田中珍彦(東急文化村代表取締役社長)

ライブ・エンタテインメントの本質的な魅力と価値の分析。それに欠かせない「場・演目・観客」のバランスについて、ホール運営者の視点から解説。

第7回(11/18):MUSIC ON! TVの挑戦とライブ・エンタテインメント

講師 : 御領博(ミュージック・オン・ティーヴィ代表取締役社長/ソニー・ミュージックエンタテインメント コーポレイト・エグゼクティブ メディアビジネスグループ代表)

メディア環境の発展に伴い音楽・広告市場が変化する中、ライブ・エンタテインメントを届けるメディアの果たすべき役割を論じた。

第8回 (11/25):ライブ・エンタテインメント 〜海外ビジネスのチャレンジ〜

講師 : 大石征裕(マーヴェリック・ディー・シー代表取締役/音楽制作者連盟理事長)

海外でのコンサート開催の実地的なセオリーを解説。今後の音楽産業におけるコンサート・ビジネスの重要性も示唆。

第9回(12/02):マネージメントの未来

講師 : 堀義貴(ホリプロ代表取締役会長兼社長/日本音楽事業者協会常任理事)

マネージメント側から捉えたエンタテインメント論。TVなど従来のメディアとライブの利点の融合や、ネットを用いたエンタテインメントのあり方を提言。

第10回 (12/09):今日的ライブ運営 〜a-nation〜

講師 : 永田悦久(エイベックス・ライヴ・クリエイティヴ代表取締役社長)

唯一の国内巡回型野外フェスであるa-nationを事例に、運営方針や具体的な取り組み、コスト管理など、コンサート産業の最前線を詳細に解説。

第11回(12/16):ライブ音楽産業の歴史と現況、カジノ産業との相乗効果

講師 : 北谷賢司(ワシントン州立大学教授/ライブアジア代表取締役社長)

米国におけるコンサート・プロモーターの発展の歴史と、寡占化が進む市場の動向の解説。カジノとの相乗効果が生むライブ・エンタテインメントの経済効果を分析。

第12回 (01/06):音楽プロデューサーとは

講師 : 松任谷正隆(雲母社代表取締役/音楽プロデューサー)

昨年度の学生とのコラボレーションの総括と、事前に学生から集めた質問への回答。前回同様に学生と直接対話するトークショー形式を導入。

第13回 (01/13):コンテンツ産業の現状とコンテンツ政策について

講師 : 村上敬亮(経済産業省 商務情報政策局 メディア・コンテンツ課長)

コンテンツ産業全般に関するデータを挙げて分野ごとの動向を解説。市場の拡大を目指す経済産業省としての計画や、海外展開の重要性にも言及。


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