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山本幸治(ACPC常勤理事)

かつて、チケットにかかわるトラブルといえば、チケットを販売したまま興行主が消えてしまったとか、公演中止にもかかわらず払い戻しがされないとか、興行側と消費者の間に起こったものでした。ところが最近は、消費者同士のトラブルが多発しています。この第一の要因は、インターネットや携帯電話の発達によって、流通チャネルが事業者だけのものではなくなったことではないでしょうか。形は違えど、社会問題となっている情報漏洩も根源は同様でしょう。

直近では、新年明けてすぐの新聞に、17歳の少女がコンサートチケットの売買に関する詐欺で逮捕されたという記事がありました。その少女と被害者を結び付けたのも、インターネットの交流サイトの掲示板であったということです。こうした消費者間のトラブルは、どれもがチケットの転売行為によるもので、金銭とチケットの授受の部分がチケット購入希望者から見えにくいこと、それでも被害者側のチケットが欲しいというニーズが大きすぎること。この二つの側面によって成立している犯罪といえます。

チケットの価格とは何か

一方、チケッティング事業者の手数料の消費者負担についても一考の必要があるでしょう。「1枚5000円のコンサートに入場するにはいくら必要でしょうか?」……常識で考えれば、内税の場合、誰が考えても5000円です。しかし、購入の状況次第で様々な手数料が発生する現状では、これが立派な設問になり得ます。私にも正解はわかりません。

が、ここでいいたいのは、「手数料が複雑で高い」という単純なことではありません。「チケットの価格とは何か」ということです。定価と消費税と販売手数料。消費者にとっては、すべてが加算されたものを価格と感じているはずです。一枚のチケットを購入するために、お財布からいくら飛んでいったか。とくに若年層にとっては重要な問題でしょう。さらに、この販売の仕方はすべてのミュージシャンのチケットに通用するものでしょうか? システムに引っ張られることで、プロモーターの「基本」を失うことが懸念されます。業務相手である私たちからすれば、定価内で手数料を支払っているはずなのに、どうして?という疑問も湧きます。もしかしたら、チケットの価格や販売方法などについて、制作側もプロモーターも、そして消費者も、みんなが「どうして?」と思っているのではないでしょうか。誰かこの問題を整理しませんか、こうした議論をもっとしませんか、ということなのです。

事業者と消費者、共存のために

ライブの価値とは、ミュージシャンの価値。音楽の価値。舞台制作の価値。私たちが共有しているそれらの価値が、チケット流通という面だけで、何か違う世界へスライドしてしまっているのではないか。いや、前述の如く、そこに犯罪が生じているのであれば、すでにチケットが本来介在すべき位置とは違う場所にあるということではないのでしょうか。本稿の次の段では、キョードー北陸の方もチケットのことを語ってくれているでしょうが、同社の公演会場内でのチケット販売の話は、プロモーターの「基本」というものを思い起こさせてくれるものです。

もし、チケットが限定商品でなければ、いろいろな販売方法・ルートがあっても構わないと思います。そこに競争があることも自由でしょう。しかし、たとえば3000枚しかないチケットを何通りもの売り方で消費者に提示したら、それは本当に便利であると言い切れるのでしょうか。結果として、それが転売の温床と化しているのではないでしょうか。転売は止めましょう、と消費者に訴えながら、もしかしたら転売のきっかけを自分たちで与えているのかもしれない。あまり考えたくないことですが、そうしたことも検証の必要があるのではないでしょうか。チャップリンの映画『モダン・タイムス』のようにならないためにも、システムが事業者と消費者の共存のためにあるという結論を導き出さねばなりません。

今が転換を考える時期かもしれません。ここまで築き上げてきたシステムに執着するのか。それとも、一度クリアボタンを押してみるのか。「チケット」について考えることは、「プロモーターとは何か」を問うことと同じなのかもしれません。


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