ACPCの活動内容と取り組み音楽産業の発展に向けて

「不要不急」ではなく「必要不可欠」
ライブの復活を信じて
ACPCがこの1年で進めたこと

各社、各エリアの状況は皆さんからお話しいただけたと思いますので、会長である中西さんからは違った角度といいますか、この1年間のACPCの動きを中心にお話しいただければ思います。

中西まず昨年の3月17日に、ライブ・エンタテインメント議員連盟を中心に、「新型コロナウイルスからライブ・エンタテインメントを守る超党派議員の会」を開催して、我々の置かれた立場を訴え、公演再開への協力と支援を求めることから始めました。自分達が携わっているライブ・エンタテインメントは、厳しい言い方をすると「不要不急」という枠組みの中に押し込められてしまったわけですから、政府に訴えかけていくことから始めないと、どうにもならないという気持ちでした。さらにはライブを開催したアーティストがSNSで徹底的に叩かれるようなことも続き、精神的な部分も含めてかなりキツいところまで追い込まれてしまった人も多かったと思います。
ゴールデンウィーク明けくらいには、業界全体の経済的な問題が相当深刻になっていきましたので、初めての経験でしたが、経産省などと何度も話し、緊急事態宣言中も週に3回ほど議員会館や省庁に行って、「こんなことになっているんですよ」と惨状を訴えました。ある程度それが伝わった手応えもあり、だんだん我々にもやれることがたくさんあるんだという気持ちになっていきました。
結果的に公演再開への補助金制度、J-LODliveをつくることができましたし、日本音楽事業者協会、日本音楽制作者連盟、ACPCが設置者となって、ライブ・エンタテインメント従業者のための支援基金、Music Cross Aidを設置することもできました。ここに至るまでは本当に信じられないくらいの労力が必要でしたし、多くの方々のご協力もいただきましたが、こんなにもコロナの問題が長引くとは思っていなかったこともあり、まだまだ課題も残っています。
日本のコンテンツを海外に発信することを目的に予算を確保したJ-LODliveが、海外アーティストの招聘については対象外になってしまったこともその1つですね。この点はとても気にしていますし、状況は少しずつ変わりつつあると思います(取材後の3月9日に、政府が洋楽プロモーターへの新たな支援方針を固めたと報道された。3月15日にはJ-LODliveの要件が緩和され、海外アーティストの招聘公演も制度の対象となった)。

コロナ禍で約1年が経過した、現状をどう認識されていますか。

中西今、ライブ・エンタテインメント産業は本当にギリギリのところにきています。我々の産業に従事しているのが6100社、63万人と見られます。この雇用を支えていることを踏まえると、コンサートができる、できないだけではなく、そこから広がる業務に携わっている人達、そして家族の方まで含めたら、間違いなく数百万の人々を支える産業になっているわけです。そう考えると、今、本当に恐ろしいことになっているなと痛感しています。ぴあ総研のデータでいえば、2020年のライブ産業の売上は2019年から88%減。88%減って、やっていないに等しいわけです。これでは戦いようがないですよ。
新しく始まったのは、スポーツ界や演劇界、映画界など、エンタテインメント全体で政府へ陳情に行くやり方です。お客さんに集まってもらわなくては始まらないという意味で、どの業界も同じですから、みんなで一致団結して動いていくことも必要だと思っています。また同じ業界内でも、皆さんから話があったように招聘プロモーターが一堂に会するなんて、これまでだったらあり得ないことが起きたり、関西のプロモーターが1つになって自治体に訴えたり、フェスをやっている人達が集まって話を始めるとか、ライバルであることは変わらなくても、僕らの産業が一致団結している感じが出てきたことは心強く思いますね。
この後、とにかく大切なのは、「不要不急」と決めつけられてしまった僕達の産業が、絶対に世の中にとって必要不可欠なものなんだと信じてやっていくことじゃないでしょうか。最近よく話しているんですが、例えばニューヨークの(アンドリュー・)クオモ州知事は、「ブロードウェイの復活がニューヨークの復活だ」と言っているんです。こういう言葉、なんだかワクワクしませんか?
日本の政府にも、各自治体のリーダーの皆さんにも、ぜひこういう発言をしていただきたいと思います。そうじゃないと、僕らも再スタートが切れないじゃないですか。

拍手だけでアーティストにエールを送る
現在のライブ会場から見えてくる光
心に入れておくべき「前向きな展望」

今年に入ってライブに足を運んでみると、会場での感染予防策が徹底されていることに驚きます。お客さんは飛沫が飛ばないように、声を出して盛り上がるのではなく、拍手だけでアーティストを応援していますね。

こんな状況下で1本でもコンサートをやるじゃないですか。アーティストから「何カ月ぶりにコンサートをやりました」と言われ、お客さんも「何カ月ぶりに来ました」みたいなタイミングで。その時のアーティストのステージの素晴らしさといったら驚きますよ。リスクがある中でやっているだけに、ものすごい集中力だし、お客さんもこの空間にいられる喜びみたいなものを表現してくれるんです。感染対策で大きな声は出せないけれど、精一杯の拍手で。ホンマにいい拍手なんです。それを見たり聞いたりすると、スタッフも落ち込んでいた気持ちがグッと上がるというか、「やっぱりこの空間でないとあかんわ!」と思えるんです。そこでまたモチベーションを上げて、公演の本格的な再開に向かいたいですね。やっぱりもういっぺん、こういうライブをつくっていこうと。

清水僕ら業界側があまり悲観的になりすぎると、そっちに引っ張られてしまうから、前向きな展望も心の中に入れておかないといけないと思います。イギリスのレディング・フェスティバルは8月に開催すると、すでに発表しているんです。これまではロックダウンして本当に何もできなかったのですが、海外はいざ再スタートしたら、ライブの復活は予想以上に早い気がします。

リモート配信はあくまで
リアルなライブとのハイブリッド
ツアーという文化を守るべき

最近のメディアでは、ウィズコロナ、アフターコロナについて語られることが多く、ライブについてはリモート配信が浸透することによって、ライブに触れる環境が進化していく、習慣が変わっていくという論調も見受けられますが、これは本当なのでしょうか。

中西それは違います。コンサートの現場の空気、会場に渦巻いている感情をリモートでできるかと言ったら、できるわけがないんですよ。確かにリモート配信は、1つのツールとしてありだと思います。例えば韓国のBTSとか、グローバルなアーティストだったら充分ポテンシャルがあるし、ビジネス的にも有効でしょう。でも、通常のライブであれば、あくまでハイブリッド。リアルなライブがあって、プラス配信だと思いますね。だいたいツアーを50本やるからといって、50本の配信をファンは全部買いますか? 買うはずがないんです。Jリーグの試合は、全国各地で行われる度に中継しても、毎回違う展開、試合結果が出るから、みんな観る。それと一緒にされたら困るんです。「これからは配信の時代です」と言われると、ちょっと頭にくるんですよ、正直(笑)。ハイブリッドがスタンダードな形になっていくとは思いますが、主流ではない。配信では大きな雇用が生まれないことも問題です。ライブが配信だけになったら、1つのプラットフォームがあればいいことになってしまいますし、アーティストも全国を回らなくなってしまいますから。

若林機材を積み込んでツアーを回って、アーティストも自分の足で各地に行くと、色々な方言を現地で聞いたり、お客さんの地域性を感じたり、地元の名産を楽しんだりするわけですよね。アーティストの身体を使った積み重ねででき上がっているコンサートツアーという文化が、急に全部デジタルになりましたと言っても、そこにリアリティがあるのかは疑問ですね。確かに初ライブが配信だというアーティストが出てきているのも事実ですが、今後配信が中心になるかはまた別の話だと思います。

中西実際にこの1年間で毎日のように配信ライブをやってみても、初めはお客さんも観てくれるんですけど、だんだん購入者が減っていって、今年の1月を境にパッタリとチケットが売れなくなったりしています。結果、配信をやっても経費もかさんで、利益が出ないケースも少なくないのではないでしょうか。音楽のマーケットには60代、70代のお客さんが結構いらっしゃいますし、これからはさらに高齢化社会が進みます。日本発のグローバルビジネスじゃないと、配信が安定的にビジネスになることは、なかなかないと思います。
今、ライブ会場でお客さんの拍手から伝わる熱気はすごいですよ。喜びの表現が拍手だけだし、アーティストの研ぎ澄まされた一挙手一投足を見逃さないで、歌を本当にちゃんと聴いて、心から拍手してくれる。素晴らしいと思います。僕は現在のライブこそ、ぜひ体験してほしいです。

2021年2月26日 ACPC事務局にて収録